2026年本屋大賞の大賞受賞作品です。テーマは「推し活」。これまであまり縁がなく、普段であれば手に取らなかったと思いますが、本屋大賞の大賞ということで「これは読まないと」と使命感を持って読みました。歴代本屋大賞受賞作である『成瀬は天下を取りにいく』や『同志少女よ、敵を撃て』のように、冒頭から一気に引き込まれるタイプではなく、じわじわと沼に足を取られていくような読後感の作品でした。
これまで不思議に思っていたのが、推し活で、推しのためにアルバムを100枚買うといった話を聞きますが、一体どういう心理なのか理解できませんでしたが、本作を通して、推し活にもさまざまな段階があることが描かれます。比較的ライトに楽しむ人もいれば、周囲が見えなくなるほど深く没入する人もいる。そして、そのごく一部の“深くハマる人”を逃さず、さらに没入させるためのマーケティングが存在することが明らかになり、読み進めるうちに少し怖さも感じました。
ゲームやアイドルに課金しすぎてしまう人の話はよく聞きますが、そうした人たちは日常生活に何らかの不満や物足りなさを抱えており、心がときめく対象を求めて推し活に入っていくようです。対象がゲームやアイドルであるかどうかに関わらず、「何かに没入したい」という欲求は誰もが持っているものであり、方向が違えば自分も同じようにこの“沼”に入り込む可能性があるのだと感じました。
ラストも印象的で、ややダークな余韻を残します。没入を仕掛ける企業側の担当者である父親が、推し活に夢中になっている女子大生が自分の娘だと気づく直前で物語は終わります。「ここで終わるのか」と思わず声が出るような幕切れで、その後の展開をさまざまに想像せずにはいられません。読後に空想が広がる、不思議な魅力を持った一冊でした。