汝、星のごとく

ご存知、今年の本屋大賞の大賞作品です。凪良ゆう氏の作品は、流浪の月を読んだ時、固定観念に囚われない家族の在り方などを考えさせられましたが、この作品もさらにバージョンアップして家族の在り方、夫婦の在り方などを考えさせられる作品でした。物語の核となるのは、田舎に住んでいるそれぞれ家庭に問題がある17歳の高校生男女の15年間の歳月です。それぞれが変わらず想い合っているのに、男女の考え方の相違や個の歩んできた考えの違いなど1つの事柄を違う角度から見た場合の感性の違いなど見事に描かれています。

周りにいる大人も様々でそれぞれが個性があり、ここに登場する人物の誰に一番共感するかでその人の感性がある程度分かるのではないかと思うほど、人物の作りが細やかでそれぞれが生きています。完璧な人物はいなく、それぞれが魅力と欠陥を抱えているところが人間臭く泥臭く生きているという感じがします。私個人的には瞳子さんと北原先生が好きですが、この作品を読んでそう答えるのは多数派ではないような気もします。

北原先生が提案した互助会の会員としての夫婦というのは何とも斬新で、でもとても建設的でお互いがピンチの時は全力で応援します。男女絡みの件でも100%味方です。普通の夫婦では有り得ないですが、始めから普通の夫婦としてのスタートではなく、互助会としての夫婦なのでできるのでしょう。個人的にはそうした夫婦の在り方も有りかなと思います。家族・夫婦の固定概念を考えさせられる物語でした。普通ではない場合、異質と捉われて世間から冷たい目で見られたりします。他人に迷惑をかけているわけではないのでいいじゃないか。私だけでもそういう考え方を支持したいと改めて思う物語でした。

人類と気候の10万年史

とても興味深いテーマの本でした。地質学の研究者である著者が自ら行った地質研究から過去の気候の変化を見つけて未来を予測するという壮大なテーマの本です。人間の寿命は約80年長くても100年です。それを何万年前の気候の状態を地道な研究によって明らかにしていきます。これは間違いなく読んでおいた方が良い本です。

過去の気候は何万年前ベースで見ると、寒冷期と温暖期を繰り返していて、寒冷期に多くの生物が命を失っています。寒冷期の直前、つまり温暖期の最後には激しい気候変動が起こっているという事実。それらを導く研究は福井県の水月湖という湖の土(年縞)を掘削し、毎年0.7㎜づつ溜まる土を分析して、その中の花粉の量などからその時代が杉の花粉が多かったら温暖期、ブナの花粉が多かったら寒冷期などと分析します。花粉は何にも溶けず何万年も存在する物質ということにもビックリしました。花粉だけではなく堆積物の内容によってその年は雨が多かったとかその内容は様々な要因が存在しその研究結果が多く書かれています。

地球の公転軌道は完全な円ではなく、楕円と円を10万年単位で繰り返すというミランコビッチ理論にも興味がでました。また、日本の水月湖は世界基準になるくらいの過去の良質な年縞が採取できます。例えば生き物が多く存在する海だとか、流れがある川などは綺麗な年縞が採取できません。湖だったら良いのかというとそうでもなく、良質な年縞を採取するには様々な条件があり、それをクリアしたのが水月湖です。そんな世界基準な湖が日本にあるというのも誇りですし、いつかその近くの博物館にも行ってみたいと思いました。

よくがんばりました

幼少期にお酒ばかり飲んであまり働かない父から逃げるように、母と二人で暮らして育った50代の中学教師の男性の元に警察から父が亡くなったという知らせが届きます。もう関係ないからと突っぱねますが他に親族もいないので面倒ながら故郷の愛知県に戻ります。時期的にだんじり祭り(西条祭り)の最中で、否応なしに子供の頃のだんじり祭りを思い出します。父との忘れていた記憶まで思いだします。父に愛された記憶がないという幼少期でしたが、自分が中年になって愛されなかったのではなく父が不器用だったのだと知ります。

父は、昔住んでいた時のままボロボロの家に住み、人が住んでいたとは思えないくらい物が少なく整頓された家の中、あの頃と同じ貸本屋を今も続けていたという現実。父が必要とされる人にある本を受け継いていたこと。自分が知らなかった父の姿を知る事になります。昔の嫌な思い出ばかりの幼少期ですが、だんじり祭りの時だけワクワクして気持ちも高まった事も思いだします。豪快なだんじり祭りの描写にはお祭りが持つパワーのようなものを本を通じて伝わってきました。父が唯一残しただんじりの法被(はっぴ)。そして思い出の本。

主人公は人に迷惑をかけてはダメだと思って生きてきましたが、迷惑をかけたくないと思っていても、家族はそんなことはできなくお互い様で迷惑をかけながら共に生きていくのが家族です。家族とは迷惑をかけるものなのだという言葉にとても深いものを感じました。人にはそれぞれの人生があり、それぞれが頑張って生きています。よくがんばりました。と言って貰えるような生き方がしたいと思いました。

彼女の家計簿

主人公のシングルマザーの元に祖母のものと思われる家計簿が送られてきます。家計簿といっても米〇〇銭などと書かれている右側にその日に起こった一言日記のようなものが記載されてあります。それを読むと昭和初期の時代背景が分かったり母と祖母との関係なども次第に分かっています。女性三世代の生き様などが描かれています。また、縦の繋がりだけでなく、女性を助けるNPO法人の代表を通じて横の繋がりである様々な女性の生き方というのが垣間見れます。

この本を読んで昭和初期の女性は自宅以外で働くという事が一般的でなかったという事。祖母は祖父が戦争から帰ってきても職がなかったため、小学校の教師として働き続けましたが、よく考えてみるとお金の為ではなく、職を通して生き甲斐のようなものを感じています。祖母が駆け落ちしようとした男性に最後に言われた一言「僕だったら君を働かせたりしない。一生守る」この言葉で駆け落ちを止めたのです。当時駆け落ちしようとしていた男性は自分の事を理解していると思っていましたが、自分は働きたくて働いているのであって無理して働いているわけではなかったというのが理解されていませんでした。当時は女性は守るもので家に居るものだったのです。

祖母はいつか女性が自分らしく働きたいなら働ける世の中が来てほしいという希望を持って生きていました。また、残してきた子供への愛情を持ったまま亡くなっています。何とも切ない気持ちになる小説でした。現在では女性が様々な職業について働いています。働く女性も珍しくなくなりました。でもジェンダーギャップ指数などを見ると日本での女性の地位は低く、諸外国に比べるとまだまだです。この小説に出てくる様々な立場の女性を見てどう生きるのが良いか色々考える機会ができました。多くの女性に読んでもらいたい本です。

夢をかなえるゾウ

この本はかなり有名なので多くの人が知っているかと思います。でも読んでいなかったのでお正月に自分に活を入れるつもりで読んでみました。普通のサラリーマンの主人公のもとに突然現れたゾウのような神様ガネーシャ。最初の契約が良かった。夢を叶えたいならガネーシャの教えを乞うか?(一日一課題)ただし、課題ができない場合、ガネーシャに自らの希望を取られて夢のないまま一生を終える。取られた希望は他のやる気のあるやつにガネーシャが授けるというものでした。おっ面白そうじゃん。と思いました。

ガネーシャの課題は簡単なものばかりです。靴を磨くとか。募金をする。腹八分目にする。トイレ掃除をする。いいところを見つけて褒める。明日の準備をする。自分の得意なところを人に聞く。などです。無理難題を押し付けるのではなく簡単な課題を毎日こなしているうちに、主人公も課題をこなすことが面白くなってきます。要は行動が如何に大事かということを身をもって体験させています。ガネーシャは大阪弁で話します。性格なども完璧ではない(ヘビースモーカーだったり大食いだったりします)ところも人間性があり(神様ですが)魅力的です。

とても読みやすいし、分かりやすいので400万部売れているのも納得です。これから何かをしたいと思っている方も読むとヒントを貰えるかもしれません。気軽に読めますし、一日一課題、主人公と一緒に自分でもやってみても面白いかもしれません。そんな読み方もあるかと思います。

同志少女よ、敵を撃て

今年の本屋大賞を受賞した作品です。1943年前後のドイツ(ヒトラー時代)・ソ連(スターリン時代)戦争が舞台です。一家皆殺しにされたソ連の少女が狙撃兵になるまでと、なった後の事が書かれています。女性ばかりの狙撃兵のチームですが、狙撃兵になるまでの訓練期間の訓練内容がリアルです。また、実際に狙撃兵になってからの戦闘シーンは手に汗握る描写と息つく暇のない判断の繰り返しでとても臨場感があり本の中の世界に引き込まれて行きます。

戦争は女性の世界ではなく、どちらかというと男性主体で動きます。その中で女性として戦っている彼女らを見て同じ女性としてとても共感する部分も多く、また、普通の女の子だった彼女たちが逞しくなっていく(ならざるを得なかった)状況、選択の余地のない状況、それでも彼女たちは何故戦うのかという問いを自らに課して戦うのです。全ての女性のためにという女の子の決意からは並々ならぬ心情を感じ、敵味方関係なく女性を守るシーンでは心が揺さぶられました。

戦争が終わった30年後もエピローグで書かれるのですが、100人以上の敵を狙撃した彼女らは英雄でもあり魔女でもありという扱いです。田舎の町で静かに暮らしますが、戦争が終わり、静かな世の中になっても彼女たちからは戦争の記憶は無くなることなく、最後の最後で、戦争って何なんだろうという虚しさで目頭が熱くなりました。いやぁ、この本は戦争を知らない私たち、そして特に女性にはお勧めしたい本です。

民王ーシベリアの陰謀ー

池井戸潤氏の作品は熱い中小企業の話や銀行の話が多いのですが、こちらは異色の政治物です。政治物ですが、硬すぎず、むしろこれまでの池井戸氏の作品に見られないようなコミカルな部分もある作品でした。地球温暖化の影響により未知たるウィルスがシベリアの冷凍マンモスが溶けて古代ウィルスが蘇る。感染者が出て日本としてどう対策を取るか総理大臣の描写が現在日本で起きているコロナウィルスと重なってリアルです。また、反対派やネットで溢れる陰謀説など現実でも行われるような描写が多々あり考えさせられます。政治家の中にも日本の国のために精一杯頑張っている人もいれば保身だけに動く人、支持率だけに動く人、様々でこれも現実に近いのかなと思ってしまいました。

未知たるウィルスの対応をどうするか?ネットに広がる噂や嘘の情報の拡散。政治家の利権問題。ある企業が儲かるためだけの工作。研究成果の伝達など、様々な現代問題にも類似する問題が山積みな作品ですが、一部の人の発言のコミカルさが事の重要さを緩和する作用がある作品です。人間の愚かさ。判断の難しさなど。個人的にも考えなくてはいけないことが沢山ある作品です。この作品は小説として今でしょ!と思えるほど今読んでみたい小説です。個人個人が様々な問題に対して混沌とした時代を生き、正しい判断をするために自分はどう生きるかという事を考えさせてくれる作品でもありました。

学びを結果に変えるアウトプット大全

何とドライアイになりまして、10日くらい目薬を点したりコンタクトを止めたりしていましたが、本が読めません。パソコンでさえ長時間は痛くなる。スマホなんて無理という感じでした。その時契約したのが、オーディオブックです。一言でいうと便利。寝る前に部屋を暗くしてから眠る前まで聞けるし、朝の準備をしている時や通勤時(電車に乗っている時間だけではなく歩いている時間まで)も聞けるので、隙間時間を利用すると無理しなくても聴けます。デメリットは本の中に表や図がある場合、見られない点でしょうか。表や図が多い本には向かないかもしれません。小説などには向くのではないでしょうか。

オーディオブックで最初に読んだのがこの本です。世の中、セミナーを聞いたり、本を読んだりインプットをしている人は多いですが、アウトプットをしないと折角の情報や内容も忘れてしまうということです。いかにアウトプットをするか。アウトプットをしないと折角インプットした情報が定着しないだけではなく忘れてしまい意味のないものになってしまうということで、この本では具体的なアウトプット方法を80個も掲げています。

偶然私がやっていたのは、朝事務所に着いたら、一日の予定を箇条書きにして机の近く見えるところに紙で置いておき、できたら豪快に消すという部分でした。正に私がやっていることでビックリしました。スマホなどのアプリでTo-Doリストを使用しているという人もいますが、スマホは誘惑が多いのでそれではダメで手書きもしくはプリントアウトした紙を出力して、終わったら豪快に(二重線で)消すというのがいいらしいです。

それととても為になったのが、例えばセミナーをする時、アイディアなどを名刺よりは少し大きなメモのような紙に1つ1つ書いていく。30枚くらいアイディアが出たらそれをタイプ毎に分けてグループ化して、それを基に構成していきパソコンにまとめるというものです。本を書くなら100枚くらい書くといいようです。おーこれは使えるなと思いました。その他にもアイディア満載なので誰でも自分が欲しいと思った具体例がいくつか見つかるかと思います。

ケースメソッド教授法入門

こちらの本は感想というより紹介になります。KBS(慶応ビジネススクール)のケースメソッドは有名で私も以前から興味がありました。大学や大学院の授業には講義形式の他に討議形式の授業もあります。習う側の本は多くありますが、教える側の本は日本では皆無です。この本は討議形式の授業を教える側の立場に立って学ぶための本です。私は20年前くらいから各種セミナーの講師をやっていますが、教える側の勉強を専門的に学んだことがありません。ただ、講義形式のセミナーは伝えたいことをできるだけ分かりやすく、できるだけ簡易にでも注意点などは強調してセミナーをしてきました。ただ、討議形式の授業は日本では高校までの授業ではほとんど行われておらず、大学でも少なく、大学院(ビジネススクール)でやっとやるかなという感じです。学ぶ機会も少ないのにそれを教えるなんて至難の業です。

海外では討議形式の授業は日本より多く、1962年にKBSがハーバード・ビジネススクール(HBS)へ教員を派遣してケースメゾットを学んでそれを持ち帰って、KBSでケースメソッドをで教えていました。KBSの内部でそれを洗練し教える側に立って書かれたのがこの本です。こんな本は見たことなかったのでとても参考になりました。この本に付いている帯にはすべての「教える人」のために!と書かれています。この本を一言でいうとそうなります。特に大学院の授業は講義形式だけではなく討議形式の内容も授業に組み込まれることが多いです。でも教える側はどうやってそれを進行していけばよいか。などを学ぶ機会は皆無です。実際講師側がやりたいようになっているというのが現状だと思います。

この本には具体的な技法が載っています。講義形式に慣れている講師だと話過ぎるのが難点でケースメソッドの場合は講師の発言は意識的に3割以下にする必要があるなど、具体的かつ能動的です。理由についてもきちんと書かれていて、納得できる内容です。ケースメソッドの講義は講義形式の講義より楽だと思っていましたがとんでもないという事にこの本を読んで気付かされました。それが効果的な講義になるためには講師の技量が欠かせないという事が分かりました。全てのセミナー講師に読んでもらいたい本です。特に講義形式のセミナーに慣れている講師が討議形式のセミナーをやる場合は必須なような気がします。講義形式に慣れていれば慣れているだけ討議形式のセミナーは全く違うということに早く気が付くためにもこの本はとてもお勧めです。

フィンランド幸せのメゾット

夏休みはこんな本を読んでみました。本を読んでの感想は、日本とフィンランドは昭和時代と令和時代くらい違うなと思った点です。もちろん昭和が日本です。日本は文明としては世界目線でみて発展していますが、ジェンダー論の目線からするととても遅れているというのが本を読んでよく分かりました。この本は今後日本を担っていく若い世代や今日本を担っている政治家に是非読んでもらいたい本でした。この本からは「今は令和なのに日本のジェンダー論は昭和のままだよー」と言われているようでした。

少し紹介すると、まず、ネウボラという制度があります。ネウボラというのは妊娠期から学校に入学するまでの間、子供の成長や発達の支援や、父親や母親などを含めた家族全体の心身のサポートを行っている組織です。日本の産婦人科と保健所を足したような自治体サービス制度で女性は妊娠したらまず、全員ネウボラおばさんに相談します。相談から健診まで全て無料で日本の産婦人科より敷居が低く、ちょっとしたことでも相談に乗ってもらえます。特に初めての妊娠の場合には何もかも不安で心配です。日本の産婦人科の医師だとこんな事相談したら過保護と思われるとか、こんな些細な事相談できないといったことも相談できます。学校に入学するまでの長い間継続して相談できるのでネウボラおばさんとは絶対的な信頼関係が築かれます。子供を育てる親にとってこれ以上の安心感はありません。

もう一つ、フィンランドの学校は全て無料なのは有名な話ですが、学校における信頼は厚く、ほとんど学校以外の学習塾に通いません。技能的な塾はありますが、教育的な塾は少ないのです。授業料も給食も無料でお弁当を作る習慣はありません。日本ではどちらかというと女性の方が子供と接する時間が長いですが、フィンランドは共働き夫婦が多くほぼ同じくらい面倒をみますし、夫婦だけではなく社会全体が子供を守っているという感じです。フィンランドに住んでいたら日本の子育てよりだいぶ金銭的・精神的に負担が少なくなる感じがします。むしろ、子供を産んで育てないと損だと思うくらいです。教育費が無料な代わりに税金がとても高いですが、国民もそれを承知していて有用な使い方だと思っています。まだまだフィンランドについて紹介したい事柄が沢山載っていますが、あとは本を読んでみて下さい。