たのしい不便


この本を見たとき、「たのしい」と「不便」は相反する言葉な気がして、妙な違和感を覚えたのです。そうしたら、とても気になってしまって、つい買ってしまいました。この本は毎日新聞の記者が書いた本で、不便を積極的に経験した体験談を書いたものです。月毎に不便を実践していってその体験や感想を綴っています。実践した不便は、会社まで電車を使わずに自転車で通勤する。とか、エレベータを乗らずに階段を登っていくとか、この本の帯にも書いてありますが、それらを実践することによって体重は減り、お金は残っていくのです。なぜなら今までより運動量が増え体が引き締まり、通勤手当が浮くのでお金は残るということでした。

でも、この本はその程度のもので終わりません。はじめは自分ひとりで不便を実行して家族を巻き添えにしないという決意で始めます。ところが、家族が協力するようになり、畑を借り野菜を栽培するようになるころから家族(特に子供たち)が協力し始めます。しまいにはカルガモを使った無農薬の米を栽培し始め、素人の稲作に地域の人も見かねて協力し始めます。その道のプロ(農家の人達)も巻き込み大昔不便だったころの地域の人々達が助け合って生きていた時代のような経験をします。

なんだかとても温かい気持ちになる本でした。不便だった時代は隣近所みんなで協力しあって生きていました。でも現在は便利になって特に協力しあわなくても個体でも生活できるようになっています。隣の部屋に住んでいる人の顔も知らないというのも珍しくありません。その分人々の交流や家族の繋がりも希薄になってきたのではないでしょうか。そう、昔は個体では生活できず協力しあわなければ生きていけない世の中だったのです。便利さと希薄さは実は表裏一体なのだということを思い知らされました。とても良い本です。お薦めです。