華やかな本の表紙に魅せられて読むことにしました。春の花と本の題名に、現在小説でしかもテンポの早い少しミステリー要素も含んだ作品だと思っていましたが、全く違いました。この本を書いたのは桐野夏生氏ですが、内容は小説家谷崎潤一郎氏(1886年生~1965年没)の周辺で起こった事を題材にしています。物語は谷崎潤一郎氏の3番目の妻松子の妹の重子の目線で書かれています。谷崎氏の出生から書かれているわけではなく、3番目の松子と結婚した後から79歳で亡くなるまでの期間についてです。
谷崎氏は自分の小説に身近な人をモデルにしてそれに装飾を加えて作品を生み出します。それによって周りの人がどのように影響されてきたのかが分かります。また、戦前からの事も書かれていて日本という国がいかに男性社会だったのかが分かります。女性が働くと職業婦人と言われ女性が働かないとやっていけない家庭(低俗)とされていました。また、専業主婦の妻だけではなく他にも女中が何人かいる。それが家族でした。その大家族を一家の大黒柱の谷崎潤一郎が支えている。そんな世界でした。
谷崎潤一郎という小説家について主人公を妻の妹という第三者の視点で描き、全体として桐野夏生氏という現在の小説家が書いています。この手法は「銀河鉄道の父」で宮沢賢治氏の事を書いた門井慶喜氏の手法に似ています(2018年11月26日のブログ参照)小説家の事はその小説の作品を読んでしか分かりません。でも小説家そのものを知りたいなら、「デンジャラス」や「銀河鉄道の父」のような本を読むことによりその小説家そのものに触れ、作品を読むにもより深く読めるものです。題名の印象と本の中身がこれほどかけ離れた作品は珍しいですが、強いて言えば谷崎潤一郎という作家の生き方自体がデンジャラスでした。そう考えるとこの本の題名も全く違うというものでもないのかもしれません。