ピエタ

冬休みの課題図書としてこの本を読みました。舞台は18世紀のイタリアのベネチア。赤ちゃんポストのような孤児院に捨てられたエミーリアが主人公の物語です。ピエタとはその孤児院の事。そこで恩師のヴィバルディが亡くなったシーンから物語が始まります。そうあの音楽家のヴィバルディ氏です。ヴィバルディはピエタで音楽を教えます。そのピエタで育った音楽の才能がある子たちは、合奏・合唱の娘たちと呼ばれ有料の演奏会を開催するほどの腕前で、実際にエミーリアの親友のアンナマリーアはバイオリニストとして成功しています。このように史実を基に書いた小説ですが、どこからが歴史上の事実でどこからが創作なのかは分かりません。大河ドラマのような感じでしょうか。

いずれにせよ。大きなテーマでエミーリアが中年になって子供の頃から今までの出来事を回想したり、また現在を生きたりする小説でした。あるきっかけでヴィバルディの楽譜を探すことになり、それを通じてコルテジャーナのクラウディアや貴族のベロニカなどと深くかかわり、立場や年齢などが違う彼女たちに友情を上回る特別な関係が生まれてきます。人は行動することで縁が生まれるのだなとつくづく思った本でした。ヴィバルディ氏は男性ですし、その他にも男性は書かれていますが、この小説には多くの女性が登場します。18世紀の女性がまだ社会的地位が低い時代を逞しく生きた女性の生きざまを描いた本といって良いでしょう。こんなに職業も年齢も何もかも違うのにお互いがひかれあって助け合って生きていきます。人とのつながりを感じる小説でした。

2024年 読書感想

毎年、12月は今年観た映画ベスト3を発表していましたが、今年は何と過去最低の15本しか観なかったのでベスト3を選べるほどの分母を持っておりません。従って映画より読んでいる本(実務書を除く)のBEST3を発表します。これは私が1年で読んだ本からなので世の中には素晴らしい本が沢山あることを付け加えて申し上げます。

1位:成瀬は天下を取りにいく・・・これは続編の成瀬は信じた道をいくまで読んでしまった今年読んだ本のお気に入りです。女の子が主人公なのもよく、空気を読まないながらもわが道を行く成瀬あかりに憧れの感情まで湧きました。成瀬のように生きたいと思った作品でした。

2位:デンマーク人はなぜ4時に帰って成果をだせるのか・・・これは理想の働き方を描いた作品でした。ジェンダーギャップもなく日本もこうなったらもっと女性も子供を産むという選択をするかと思います。日本もこんな風になってほしいと思いました。

3位:終わった人・・・3位は犬がいた季節や神時間力や水車小屋のネネと迷いましたが年末まで心に残っているのはこの作品でした。私は自由業なので仕事を辞める時期を自分で決められます。でもサラリーマンは気力や能力があっても強制的に辞めさせられます。その何とも言えない哀愁の中頑張る主人公を応援したくなる本でした。

テレビもですが、映画も最近あまり面白そうな映画をやらなくなりました。ですから来年の映画を観る本数も低迷すると予測されます。従って来年も読書感想になるかと思います。読書は自分の内面を開放し、様々な考えに出会える最大の機会だと思います。最近本を読まない人が多くなっていると聞きますが、本は読まないとその楽しさを理解できません。来年は本を読んでみませんか?

サクッとわかるビジネス教養 地政学

世界中に様々な国があるが至るところで紛争が起きている。なぜ紛争が起きているのかがこの本を読むとすごく分かります。日本やイギリスのような島国はシーパワーに属し、ロシア、中国、フランス、ドイツなどの大陸にある国はランドパワーに属します。ランドパワーはシーパワーより縄張りの意識が高く他の国からの侵略を恐れています。日本のようなシーパワーの国は海外から攻めづらかったから独立を続けられたのだとか、地政学を考えるとなぜロシアがウクライナを攻めているのかが分かります。アメリカと中国の冷戦や、石油などの物流に必要な海峡は重要だとか、島国でのんきに過ごしていた日本人にとっては目から鱗の事が沢山書かれています。

過去の戦争や紛争なども地政学を理解した上で考えるとなるほどなと思う事もあります。日本から見た地政学、アメリカから見た地政学、ロシアから見た地政学、中国から見た地政学、中東から見た地政学など様々な角度から地政学を見ていてとてもためになりました。政治家になる人は必須の科目だと思います。中東戦争などはなぜアメリカはイスラエルの味方になるのか?などはイスラエルはユダヤ人国家ですが、アメリカはユダヤ系アメリカ人が多数いる(しかも資産家も多い)などとても興味深いことも書かれています。おすすめです。

デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか

大共感の本でした。日本は結婚しても家事・育児の大半は女性が担います。でもデンマークでは男性も女性も正社員で働くのが当たり前で、家事や育児はほぼ半々で行います。どちらかに荷重が集中することはありません。ですから夫婦は運命共同体で協力体制が出来上がります。男性も積極的に家事・育児に参加するし、むしろ参加したいとさえ思っています。女性も正社員で働くのが当たり前で、男性に養ってもらおうなどという考えは微塵もありません。女性も仕事にやりがいを見出しており家庭も仕事も大事です。

ジェンダー不平等指数(DII)という数値があり、値は0(女性と男性が完全に平等な状態)~1(全ての側面において、男女の一方が他方より不利な状態:ほとんど女性が不利)で表しますが、デンマークは0.009で世界一不平等でない国です。ちなみに日本は0.078でまだまだデンマークの足元にも及びません。デンマークでは15時から16時くらいになると帰る準備をして帰ります。日本のように上司が帰らないから帰りづらいということもありません。それが当たり前なのです。なんのためにそんなに早く帰るのか。それは家族との時間を大事にしているからです。早く帰り家族全員で一緒にご飯を食べて、もし、仕事が終わっていなかったら子供が寝てから仕事をします。

みんな仕事が大好きで、でも家庭の方がもっと大事という感じです。仕事ではほとんどの人が会議に積極的に参加します。上下関係はあまり関係ありません。仕事上の反対意見もありますが、それは仕事の内容であって人格を否定しているわけではないので、反対意見でもお互いを尊重します。素晴らしいの一言でした。日本もそんな風になれば大人になっても楽しいし、結婚もしたいし、子供も育てたいと思う人が増えるような気がします。この本での働き方、そしてデンマーク人の考え方は私の理想とするものでした。だから私は日本では働きづらいと思っているのだと思います。だからと言って国家資格なのでこの国で仕事をするしかないのですが・・・価値観というものを見直すきっかけになる本です。

自分とか、ないから。教養としての東洋哲学

この本は電車中のポスター広告で見て、面白そうだなと思ったので読んでみました。荘子、龍樹、達磨、ブッタ、親鸞、老子、空海の7人の哲学論を超訳した本です。その道の専門家が見たら怒られそうなくらい超訳していますが、超訳しているからこそ、分かりやすいです。似ているけどちょっと違う事を言っているとか、空とか無とか道(タオ)とか出てきてなんとなく知っているけど、違いが分からないという人々に分かりやすく教えてくれます。7人の教えを聞いていると似ているけど、ちょっと違う事が出てきます、そうかと思うと全く逆なことを言ったりして、全部聞いた後は、何だか何でも良いのではないかと気が軽くなります。

面白いのは、哲学論の超訳だけではなく、7人の人物像も詳しく解説していて、それがまた面白かったです。良い家柄の王子だったのに家出して出家してしまったとか、一度も働いたことがないニートだとか、天才だけど見た目が凡人だとか言いたい放題ですが、これらの人の教え(哲学)に注目した本は沢山ありますが、その方と哲学を両面から見ているので、超訳(略しすぎ)でもとても印象が強く残ります。そしてそれらの人も意外と普通(むしろ社会不適合者)で、欠点もあり、とても身近な人にも思えます。まぁ、空海だけは別格でしたが・・・

これを読んでいる最中に私が尊敬している空海もダメ男だったらどうしようとちょっと怖かったですが、空海だけは期待を裏切らず、斬新でそして秀でていてますます尊敬してしまいました。あまり違いは分からないけど大雑把に東洋哲学を学びたいと思っている方に最適な本だと思います。詳しい人は怒るかもしれないので読まない方が良いかと思います。でも読み終わった後には完璧な人間なんていないし、哲学にも完璧はないのだと気持ちが軽くなる。そんな本でした。

水車小屋のネネ

この小説は500ページ近くもあるので夏休み課題図書にしましたが、夏休みだけでは読み終わらす、やっと読み終えたので感想を書きます。18歳と8歳の姉妹の女の子が二人で生きていくと決め、住み込みで働ける仕事をしながら周りの人たちとの助けも得ながらたくましく生きていく姿が描かれています。

18歳でありながら妹の律を養育しようと頑張るお裁縫が上手な姉の理佐、姉に迷惑をかけないようにわがままも言わない本が好きな妹の律。二人の生活は貧乏でしたが、周りの優しい大人に囲まれすくすくと育っていきます。そして水車小屋のしゃべる鳥(ヨウム)のネネがその姉妹にとっても大事な存在になります。ネネは鳥ですが、しゃべれるし、温かいし賢いので、周りの人は誰もが虜になります。そして仕事を持っています。水車が石臼でそば粉を引くのを管理しているのです。石臼の空引きは石に良くないのでネネはちゃんと見張っていて空になると「からっぽ」と教えます。それを聞いて新たなそば粉をいれて、引き終わったそば粉は蕎麦屋さんに持っていくのです。その仕事を何十年もしています。

少しずつ時は流れ姉妹二人とも大人になり、大人になって自分たちはどんなに周りの大人に助けられてきたのだろうと感謝して今度は助ける側にまわります。人はそうやって助け合って生きていくのだととても暖かい気持ちになります。40年間の歴史を描いているので途中、画家でネネの世話をしているおばあちゃんの杉子さん、理佐の最初の就職先の蕎麦屋の店主守さんなども亡くなっていきます。みんなでお葬式をします。この時、なんとなく最後にネネも亡くなるのかなと思いましたが、ネネは最後まで元気でそして賢い鳥でした。日常の何気ないことを描いた物語ですが、人は誰も一人で生きてはいけないという事を実感でき、助け合いながら生きていくことが充実した人生というのではないだろうか。と感じた本でした。暖かい気持ちに包まれます。最後の最後での律の笑顔が脳裏に焼き付きます。

遺伝子とは何か?現代生命学の新たなる謎

再び科学系の本を読みました。大学に入ってからほぼ理科系は勉強していませんが、小学生から高校生までは一番成績が良かったのは理科だったので、やはり、私は生物とか科学とかに興味があるのだと思います。本の内容はかなり専門的ですが、歴史的変遷が軸となって話が展開します。その昔、人は人の中に入っていてそれが大きくなって生まれると、まるでマトリョーシカのように考えられていた時代から、メンデルがエンドウ豆の実験で有名なその遺伝子の基礎を発見し、メンデルの発見から遺伝子学が発展してきたようです。

その後、ワトソンとクリックがDNAは2本の鎖状のらせん階段のような構造だと発見しましたが、それにはフランクリンとウィルキンスの実験結果があったから実現したということで、この2人を協力者としてワトソンとクリックが発表しなかったのは、科学者として大いなる倫理違反であると痛烈に批判しています。フランクリンはX線構造科学者で結局X線を浴びすぎて卵巣がんになり亡くなってしまうという結末を迎えます。この部分の記述はこの本の中で唯一クレバーな著者が感情を強く出していて、私も共感しました。

DNAのその後の話はmRNA,tRNAと続き、科学者らしく、かなり専門的になりますが、遺伝子の歴史的変遷を知るには良本です。著者は研究者であり科学者なので面白さを追求しているというより専門書に近い本です。ちなみにメンデルの法則が有名になったのはメンデルが亡くなってからのようです。当時は発送がかっとんでいて誰も相手にしなかったそうな・・・

成瀬は信じた道をいく

試験勉強をしていた期間、小説が読めなかったのがストレスでした。そこで終わった瞬間読みました。あかりちゃん、会いたかったよバリです。これは本屋大賞受賞した「成瀬は天下を取りにいく」の続編です。なんとちょっと未来(2026年1月まで)まで書いています。前編で成瀬は東大に行くのか京大に行くのかというところで終わっていましたが、東大は受けず京大を受験しました。京大の奇人変人天才ぶりは有名なので、成瀬は京大向きだよなぁと思っていましたが、滋賀をこよなく愛する成瀬は自宅から通える京大を選択したのです。

京大に入ってからも近所のスーパーでアルバイトしたり、自主的に地域パトロールをしたり、忙しそうです。成瀬の良いところは何にでも真面目で、公平で、媚びなく、行動力があるところです。空気を読めない性質なので、初めて会った人からの印象は総じて悪く、でも次第にこの正義感と公平感にファンとなる人が出てきます。相変わらずの成瀬で安心しました。今回はびわ湖大津観光大使に任命され、それも頼まれてもいないのに全力で滋賀をアピールします。損得勘定はせず、何事にも実直で真面目な成瀬に笑ってしまうシーンもありますが、それでも成瀬を見ていたいという心境は変わりません。大学卒業して就職しても、おばあちゃんになっても見ていたい(見守っていきたい)と思う成瀬でした。

黄色い家

2024年本屋大賞6位の作品です。600ページ以上の超大作なのでゴールデンウィークの課題図書にしました。前回のブログの感想で、本屋大賞の大賞を受賞した成瀬は天下と取りにいくが陽の作品なら、黄色い家は陰の作品です。600ページ超に及ぶ文体は繊細でジワジワと戻れないところまで行ってしまいます。そう。高校も卒業していない家出少女にまともに働ける場所はありません。でも生活のためにお金を稼がなければならない。幼いときから貧困であった彼女は人よりお金に執着します。

高校の時にアルバイトで貯めたお金を親の恋人に盗まれたり、家出をしてから未成年でありながら飲み屋で働いたお金を親の無心で失ったり、違法な方法で稼いだお金を結局持ち出さずに逃げ出したり、お金に執着する割には手元に残らないという生活をします。しかも心に大きな傷跡を残したまますべてを放棄します。その後住み込みの宿や総菜屋などを転々として、20年前に逃げ出した際にお世話になった女性の新聞記事を見て会いに行くというお話です。

彼女にもう少し知識があったら・・・もしくは周りの大人がもっと社会保障の事など知っていて助けてあげられたら彼女の人生は変わっていたかもと思うと切ない気持ちになりました。なぜ黄色い家なのか小説を読むと分かりますが、風水では黄色は金運を司ると言われているからです。でもその状態は異常でちょっと病的にも感じてしまいます。ただ、まだ人生も半分あります。何としても今後の人生で巻き返しを図ってもらいたいものです。

成瀬は天下を取りにいく

本屋大賞受賞作品です。本屋大賞はハズレがないので必ず読むようにしています。序盤早々笑ってしまいました。この本面白い!すぐに思いました。読み始めが自宅で良かったです。電車の中では笑いをこらえることが出来なかったと思います。成瀬あかりの中2から高3までの青春時代を描いた小説です。私も悪いこと以外で迷ったときはやる主義ですが、成瀬は群を抜いてそれを実行します。群を抜いているというより突き出ています。とりあえずやってみるということを地で行く少女です。私は成瀬の足元にも及ばないので年下ながら成瀬を師匠と呼ぶことにしました。

成瀬のエピソードは沢山あるのでそれは本を読んで楽しんでもらうとして、成瀬の人生の最終目標は200歳まで生きること。かなりカッとんでると思いましたが理由を聞いてそうか。成瀬はやっぱり凄いなと思いました。なぜ人類は200歳まで生きられないのかというとそれは誰もそれを目指さないから。だれかが目指せば、目指す人が増えればいつかそうなるんじゃないか。と成瀬が悟った時、ハッとしました。最近読んだ本に決めつけることは良くない。既成概念にとらわれることが自分の成長を阻害すると学んだはずだったのに、200歳まで生きると宣言した少女のその一言にふっと鼻で笑う失態をしてしまったことを深く反省しました。そして私もひそかに120歳まで生きるという野望を抱いていますが、成瀬に比べるとやはり小さな人間だなとつくづく実感したのです。80年も負けた。目標がそれだと初めから成瀬に勝つことはできない。完敗だと・・・

この小説の舞台は滋賀県大津市で西武百貨店大津支店が出ています。その店が閉店になって東京大学のオープンキャンパスに来た時にわざわざ西武百貨店池袋本店に来た時には、あかりちゃんようこそ!と心から思ってしまいました。映画、翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~を観たときに東の埼玉、西の滋賀というくらい2つの県は似ていると私(埼玉県出身です)の中で滋賀県は姉妹都市のような立ち位置でしたが、そうか。西武百貨店というつながりも(これは当事務所のある池袋ですが)あるのか。ととても他人とは思えない親近感も感じたのです。非常に面白い小説でした。元気になること間違いなし。おすすめです。