月の満ち欠け

第57回直木賞作品です。人の死後の世界は誰も知らないけれど、死後の世界は死んだ人しか分からなくて、本当に全く無になってしまうのかどうかも分かりません。例えば月のように満月が三日月になり無くなってもまた満ちて三日月になり満月になるような繰り返す死があったとしたらどうでしょうか?そんなことをテーマにしている作品です。

よく臓器移植された人が臓器を提供してくれた人の嗜好を引き継ぐという話は聞いたことがあると思います。それと同じでまだ年齢的に小さな子供が前世の記憶を話し出す。もしくは生死をさまよった後、復活するがまるで別人のようになるという話もあるようです。実際に前世の記憶を持つ人の話は溢れていてこれは本人と当事者しか知らないことを別の子供が話し出すとか・・・

この本でも瑠璃という女性が4代に渡って生まれ変わるというか転生します。以前の恋人を追いかけるような出来事があります。ミステリアスでもあり、だからと言って全て否定できないそんな本。不思議の世界に紛れ込んだような本でした。直木賞を取るだけのことはあり、読み進めるとどんどん文章にハマっていきます。

大学病院革命

この本は昨年亡くなった大学院の教授から頂いたものです。頭の良い東京大学名誉教授が書いていたので、何となく統計的でコンサルティング的な本かと思っていました。読んでみて唖然としました。大学病院や大学医学部の歴史的な側面やご自身が体験したアメリカの大学病院などの勤務経験を通して、本気で日本の医療制度というか大学病院革命を起こそうとしている本でした。実務を経験したからこそ書ける本で、何で私はこんな良本を数年放置してしまったのだろうと後悔するくらいでした。

著者は東京大学の名誉教授でありながら東京大学医学部の悪い点や東大病院のなっていない点なども躊躇なく指摘しています。その通りだと思う内容ばかりで短い文章では書くことができないくらい深い内容となっています。帯にもっとも過激でまっとうな“処方箋”と書いてありますが、この本を一言で言うと正にもっともで過激な処方箋です。東京大学医学部は日本で最も偏差値の高い大学学部ですが、偏差値が頂点だからそこを目指すという人も多いといいます。でも本来医者となるのはそういうことじゃない。医者の適正や覚悟も必要だそうです。偏差値よりむしろそこが重要だと言っています。

この本を頂いた教授は、私が医療法人の経営コンサルタントもやっているから見聞を広げるためにくれたのだと思います。ちゃんと生きている間に感想を言えなくてごめんなさい。良本をありがとうございました。杉野先生(この本をくれた教授)は理論ではなく常に実践を通して物を考えろという方でした。やってみないと何も分からないと・・・そうです。まずはやってみる。その上でないと何も語れないのです。卓上の理論ではダメです。改めて襟を正して生きていこうとさえ思いました。

熱源

この本は、北海道から樺太(サハリン)そしてロシアにまで渡る地域での話でした。その辺には日本人(和人)、アイヌ人(土人)、オロッコ(ウィルタ)、ニクブン(二ヴフ)やそれらのハーフ達が出てきます。序章と第一章を読み終えたところで、第二章を読み始めると、登場人物から物語背景から何もかも変わったので、短編小説かと思いましたが、章を読み進めるとそれらの人達が別の人からの目線で登場して接点が出てきます。

面白い書法の小説でした。名前になじみがなく、かつ、登場人物が多いので、読み進めると誰が誰だか分からなくなるシーンもありましたが、序章より前にご丁寧にも登場人物の紹介が書いてあったので頭の整理に役立ちました。中身は第160回直木賞授賞の宝島(2020年1月8日ブログ参照)に似ていました。熱源も第162回直木賞受賞作なのでこういう文章が今、流行りなのかもしれません。宝島は日本最南での話、熱源は日本最北での話です。これらの地域は戦争時に大きく影響を受けた地域でもあります。

アイヌ人は日本人ともロシア人とも違う独自の民族です。少数民族ながら強く逞しく生きています。この本も何とも壮大な話でした。日露戦争にも触れており約50年くらいの長きに渡る小説です。それぞれが熱い想い(熱源)を持って生きていました。どんなにエネルギーがある人も最後には亡くなってちょっとうら悲しい面もありますが、最後に女性2人が熱源をもって小さな闘争を終わらせたのには救われました。約半世紀に渡る物語です。壮大過ぎて言葉には表せませんので是非読んでみて下さい。

クスノキの番人

東野東吾氏の作品ですが、殺人事件などはありません。人生やや投げやりになっている青年(玲斗)が警察に捕まったところ、亡くなった母の腹違いの姉(千舟)がクスノキの番人をやるという条件で助けてくれます。特にやる事がなかった玲斗はその条件を受けます。クスノキの番人というのが何なのか分からないまま・・・

伯母の千舟はクスノキの番人をやっていましたが、高齢な事と自分に子供がいないので後継ぎがいません。唯一血が繋がっている玲斗を後継者としたかったのです。神社の裏に大きなクスノキがあってその幹に大きな穴が空いています。そこで満月と新月の夜に予約制で祈念が行われるのです。その番人です。祈念が何か分からず千舟に聞いてもそのうち分かるとしか言われながらも祈念に来る人と接していきます。

それは血のつながったもの通しでしか経験できない不思議なクスノキのパワーです。念を預ける行為を祈念、受け取る行為を受念といいます。これは良くも悪くも全ての念が伝わります。文章では表現しきれない微妙な感情まで伝わります。音でさえ伝わります。この本を読み終えたとき、こんな木が日本のどこかにあるような気がしてしまいました。ほっこりする東野ワールドがそこにありました。

スタンフォードのストレスを力に変える教科書

この数ヶ月かなりのストレスにさらされていました。生涯で一番つらい時期だったかもしれません。こんな時この本に巡り合いました。とても勉強になりました。ストレスは健康にも悪いと思っている人は多いと思います。私もそう思っていました。ストレスにだらけの職場で働いている友人の愚痴などを聞くと体に悪いから転職すればいいのにとも思っていました。ところがこの本にはストレスは健康に悪いと思い込んだ場合に限ってストレスは有害になるということでした。

ストレスホルモンの中にはコルチゾールとデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)という2つのホルモンがあります。両方ともストレスを感じたときに出るホルモンですが、コルチゾールは糖代謝や脂質代謝を助け体と脳がエネルギーを使いやすい状態にし消化や生殖や成長などストレス時にはあまり重要でない生物的機能を抑える働きもあるようです。一方DHEAは神経ステロイドの一つで脳の成長を助ける男性ホルモンだそうで、ストレスの経験を通じて脳が成長するのを助けコルチゾールの作用を抑制し創傷の治癒を早め免疫機能を高めるそうです。コルチゾールもDHEAもどちらも体に必要なストレスホルモンですが、コルチゾールの割合が高いと免疫機能の低下やうつ病などの症状が表れる可能性があり、DHEAの割合が高くなると不安症、うつ病、心臓病、神経変性などストレスに関連する病気のリスクが低下するそうです。コルチゾールに対するDHEAの割合はストレス反応の成長指数を呼ばれ、成長指数が高い(DHEAの割合が高い)とストレスに負けず辛い事を努力をして粘り強くやる傾向にあり成功する人が多いようです。

勝負どころで心臓がバクバクして手に汗握るという経験は誰にもあるかと思います。それは体がストレスを感じ、肝臓はエネルギー源となる脂肪と糖を血液中に放出し、呼吸が深くなり沢山の酸素を心臓に届けます。そうすると心拍数が上昇し、酸素と脂肪と糖が筋肉へ運ばれます。ストレス反応は目の前の問題に立ち向かうための準備を整えます。どうですか?つまりこのような症状は体が自分を応援している証拠でもあるわけです。ストレス反応を最大の味方にする方法なども書いてありストレスに対する見方がかなり変わりました。日頃ストレスを感じている方に是非読んでもらいたい本です。

流浪の月

今年のゴールデンウィークの(私が勝手に決めた)課題図書は2020年本屋大賞受賞作品です。子供のころ、伯母の家に住んでいた小学生の更紗は、ある理由により家に帰りたくない衝動にかられます。その時保護してくれたのは大学生の文です。更紗は文の家にいた時、自由に伸び伸びと暮らします。更紗がパンダが見たいと言い出して、動物園に行った時、テレビで行方不明になっている少女だとバレてその場で文と離れ離れになります。文は小学生の女の子を誘拐したロリコン犯として警察に捕まります。更紗が文のことを良く言えば良く言うほど洗脳されていると言われ可哀そうな子供として扱われます。自分の意志で文について行ったのに・・・文との日々は自由に生きられた日々だったのに・・・。

そのまま文と会えぬまま更紗は大人になります。あの事件から15年後、偶然、文を見つけます。更紗はストーカーのように文に会いに行きます。でも声はかけません。自分がちゃんと言えなかったばっかりに、少年院に行くことになった文・・・自分は子供から大人になったけど、文は15年経っても全く変わっていなかった。そこから物語が展開していきます。更紗は男としてではなく、人として文が大好きです。そして文もまた更紗を女としてではなく人として好きなのです。この二人は一緒に過ごしカフェをやります。お互いにそれを望んでいないので男と女にならないまま一緒にいます。お互いに特別で大事な人というのは変わりません。

「事実と真実は違う」これがこの本のテーマです。9歳の女の子が19歳の男に誘拐されたことも事実ですが、真実ではない。そして、誘拐犯と被害女性が一緒に住んでいるというのも事実ですが、真実ではない。つまり、二人は通常の夫婦のような関係ではなく、もっとそれを超えたものです。男女一緒にいるとすぐに男女の関係を連想しがちですが、そういった関係ではなく一緒にいて居心地の良い関係というのは存在します。友達でもない。夫婦でもない。恋人でもない。これを何という関係なのだろうと思います。でも私もそれは良く分かります。夫婦や恋人のようなことはしない。でも精神面ではそれを超えた存在。とても良く分かります。これを何というのでしょうか?未来にこれを形容する言葉ができるでしょうか?

おひとりさまマーケット

今月はやたらと「おひとりさま」で居ることが多く、こんな本が目に留まりましたので読んでみました。いわゆるおひとり様の消費行動などを分析しています。おひとり様は日ごろ節約などをしているものの、自分のこだわりにはお金をかけるという習性らしいです。この本は女性のおひとりさまに絞って書いてあります。

読んでみて笑ってしまったのは、その消費行動は私にも当てはまっているものが沢山あり、また、私の周りの友達にも当てはまっているものが沢山ありました。なぜ、こんなにもみんな同じような行動をとるのだ?と思うほどに・・・

女性のおひとりさまをターゲットとしたマーケティングはあまりしていない企業が多く、でも女性のおひとりさまは、こだわりが強く一度気に入ると最強のリピーターになること。そして最高のクチコミニストであると著者は言っています。だから女性のおひとりさまをターゲットとした物や事を売ってマーケティングもちゃんとやりましょう。って書いてあります。まったくもってその通りだ!と思うことが沢山書いてありました。

FACT FULNESS



本屋で手に取りおおっ!となったので読んでみました。結論から言うとこれは本当に読んだ方が良い本ですね。しかも今の時期にピッタリです。絶対読むべきです!この本は「ファクトフルネス」という表題の他に10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣という副題が付いています。10の思い込みは別の言い方をすると人間が持っている10の本能です。それは、分裂本能、ネガティブ本能、直線本能、恐怖本能、過大視本能、パターン化本能、宿命本能、単純化本能、犯人捜し本能、焦り本能です。

全て読んでみると納得することばかり。ネガティブ本能(世界はどんどん悪くなっているという思い込み)や焦り本能(いますぐ手を打たないと大変なことになるという思い込み)だけでも今すぐに読んでもらいたいくらいです。この原因となっているのはドラマチックすぎる世界の見方が原因であると言っています。世間では悪いニュースの方が広まりやすいという事実に気が付く事。明るい話はあまり人々の興味を引きません。例えばオリンピックで日本人が金メダルと取ったくらいの明るい話は興味を持つけれど、もっと地味な例えば30年前はここの地区では年間約〇〇人の子供が亡くなっていたのに、ここ〇年は1/10以下になりましたなど・・・溺れる子供の数はニュースになるけれど溺れなかった子供が増えることはニュースにならない。メディアとは悪いニュースの方が広まりやすいという事実を前提に物事を自分なりに考えるという事が大事です。

あと、犯人捜し本能にも気を付けたい。何か悪い事が起きたとき、単純明快な理由を見付けたくなる傾向が犯人捜し本能ですが、わたしたちは犯人捜し本能のせいで、個人なり集団なりが実際より影響力があると勘違いしてしまい誰かを責めてしまう。その本能のせいで事実に基づいて本当の世界を見ることができなくなってしまう。誰かを責めることに気持ちが向くと己の学びが止まる。責める相手がみつかると他の理由を見付けようとしなくなるからです。そうなると問題解決が遠のいてしまったり、同じ失敗を繰り返すことになります。誰かが悪いと責めることで複雑な事実から目をそらし、正しいことに力を注げなくなってしまいます。これは本当に注意しなければならないと思います。都内でも外出自粛などの要請が出てきました。この時期こんな本を読んでみたら良いのではないでしょうか?きっと皆さんの生活を守る上で役に立つと思います。

70歳のたしなみ

70代の母にこの本が読みたいから買ってきてほしいと頼まれました。どうせ買うなら自分も読もうと読んでみました。この本を読んだ第一印象は、私は坂東眞理子さんと気が合うかもと思った点です。坂東氏とは親子ほど年齢が離れていますが、それでも気が合うかもと思ったのです。私が日頃思っていることと同じような事がこの本には書いてありました。

そして私を超える考えもありました。「AIがどれほど進歩し自己学習を重ね、知識を有するようになっても、挫折や絶望から立ち直る力はない。人間が人間である根本の能力は絶望からの回復かもしれない。私も将来どのような老いを迎えるのか、どんな病気になるかわからないので正直不安である。健康第一を心がけるのは大切だが、『生老病死』という命の大原則を変えることはできない。老いや死と同じく病を受け入れ、病とともに生きる覚悟も必要である。」

この一文を読んだとき涙が出そうになりました。この本はおそらく70代の人にバカ売れだと思いますが、もっともっと年下の世代が読むとアドバンテージがある分凄く得した気分になります。そしてどちらかというと女性目線というか女性の味方のような文章なので世の中の女性への応援メッセージのような気もします。良い本を読みました。母に感謝です。

宝島

お正月の課題図書は「宝島」です。この本はハードカバーで541ページあるのでなかなか読み応えあります。直木賞と山田風太郎賞のW受賞をしている本なので是非長期休暇の時にと思って以前買っていました。宝島というとワクワクする冒険小説なのかと思いましたがそうではありません。沖縄の歴史的物語。そこに書かれていたのは沖縄返還前後約15年間の歴史です。中心人物ははじめは子供でしたがそれぞれ色々な大人になっていきます。そこには沖縄人(うちなんちゅ)の逞しさや切なさ何とも言えない悲壮感まで漂っています。

お正月に読むにはかなり重い、でもよくよく考えればお正月だからこそ読むべき本なのかもしれません。色々考えさせられる本でした。主人公の1人にヤマコという女の子が出てきます。私が女性だからかこの本を読んでいるうちに次第にヤマコに感情移入していきました。どこかでヤマコ頑張れ!と叫んでいる自分がいました。この本の中の少年少女は過酷な環境の中でも決して人生を諦めず、強く逞しく生きていきます。それは大人になっても変わらず熱い想いを持って生きています。

物のない時代、沖縄の米軍基地から物資を盗み出す戦果アギヤーの少年少女の物語です。この本を読めば己の不幸は大したことないと思えると思います。それだけ壮大でエネルギーのある本だからです。本って凄いですね。こんなに小さな物質の中にこんなに壮大がエネルギーがつまっています。今年も本を読みます。この本はお勧めです。