人魚が逃げた

この本は銀座を舞台に、1章1章主人公が変わります。はじめ短編小説だと思って読み進めていましたが、実は目線(主人公)が変わる事で物語が違って見えるだけで最後の方になるとこれがそれぞれくっついてきます。全貌が明らかになってくるやつです。

あの時あの人が言ったこのセリフは自分側からみたらこう感じてしまったが言った方からすればこういう意味だったというような事が度々書かれます。人は同じ空間を過ごし同じ体験をしてもそれぞれが思う事は別で不思議な世界にいざなわれます。

自分が思っていたマイナスイメージが相手からしたらそういう意味ではなかったというケースが度々出てきて、ほっとします。最後にはそれぞれの登場人物がハッピーエンドになる予感で終わります。余韻が残り後味が良い小説でした。

いただきます

出たばかりの新書「いただきます」をaudubleで聞きました。19歳の何もやる気のない青年が割の良い仕事をお金のためだけに働き、仕事を転々としていましたが、ある日守衛室に勤務することになり、そこで一緒に働くおじいさんやおじさん達を通じて、成長していく姿が描かれています。最近ありがちなコスパが良い仕事を求める若者が人生の経験者たちにふれ考え方が次第に変わっていきます。

この本、今の若者に読んでほしいなと強く思いました。若者でなくても人生に迷っている人たちに読んでもらえたら目の前がパッと明るくなる本だと思います。特に仕事に対するくだりの部分で、本当に人生をかける仕事なんてぱっと現れるものではなく、なんでも誰でも出来る仕事から始まります。何の仕事でも始めは雑用です。守衛室などは誰でもできると考えられていますが、誰でも出来る仕事ほどやった人によって結果の違いがでてきます。その平均よりはみ出て出っ張ったところがその人の能力であり、それが溜まってくると凄い力になるということ。こんな考え方あるんだと感心しました。

また、人は成長するとき他の人や物から見えない何かをいただいていて、それで成長しています。魚一つ食べるにしても魚の命をもらって生かしてもらっています。魚だってどうしようもない人に食べられるより、立派な人の血や肉になった方が命を落とした甲斐があるというものです。私たちは魚の命をいただいて生きている。いただきますという言葉には深い意味があるということ。そして年配になったら自分が経験したためになる教えを誰かにあげるようにして人とのつながりが循環していくのかと壮大な考えも教えてもらえます。良本です。

これは経費で落ちません1~8

この本は世の中の経理マンは何を基準に経費にしているのかということに興味があったので読み始めました。主人公は森若さんという女性なのですが、同じ会計処理でも人によって考え方は様々で私はこの森若さんととても似ている考え方だったのでとても興味が持てました。経理だけではなく物事に対する考え方も似ています。小説は心の内面も映し出されるのであまりにも似ていて1巻だけでなく2巻3巻と読み進めて8巻まで読んでしましました。

彼女は通常は紅茶を好みここぞの時にコーヒーを飲みます。私もそうです。ただ、彼女のご褒美食事は握り寿司ですが、その点は違います。でも考え方などが似ているため吸い寄せられるように本を読み進めました。SNSが嫌いとか飲み会が嫌いというところまで似ています。最初は森若さん狙いで読んでいましたが回を追うごとにそれぞれの周りの人達の目線で書かれるシーンがあります。それぞれ個性があり、本当に実在するかのように個性的で、最初の場面では理解できなかったことも当事者本人の目線で書かれるとそういうことか!と思ったりしました。

作者の人物に対する描写が素晴らしく、同じ事が起こってもその人によってどう感じるか、どう行動するかが絶妙に違っていて作者の人物像をつくりあげている力量のようなものも感じました。この本は続編も出ていますので、さらに読み進めようと思います。森若さんたち経理が決算時には特に忙しくなって働いている姿をみて私も頑張ろうと思った次第です。

ピエタ

冬休みの課題図書としてこの本を読みました。舞台は18世紀のイタリアのベネチア。赤ちゃんポストのような孤児院に捨てられたエミーリアが主人公の物語です。ピエタとはその孤児院の事。そこで恩師のヴィバルディが亡くなったシーンから物語が始まります。そうあの音楽家のヴィバルディ氏です。ヴィバルディはピエタで音楽を教えます。そのピエタで育った音楽の才能がある子たちは、合奏・合唱の娘たちと呼ばれ有料の演奏会を開催するほどの腕前で、実際にエミーリアの親友のアンナマリーアはバイオリニストとして成功しています。このように史実を基に書いた小説ですが、どこからが歴史上の事実でどこからが創作なのかは分かりません。大河ドラマのような感じでしょうか。

いずれにせよ。大きなテーマでエミーリアが中年になって子供の頃から今までの出来事を回想したり、また現在を生きたりする小説でした。あるきっかけでヴィバルディの楽譜を探すことになり、それを通じてコルテジャーナのクラウディアや貴族のベロニカなどと深くかかわり、立場や年齢などが違う彼女たちに友情を上回る特別な関係が生まれてきます。人は行動することで縁が生まれるのだなとつくづく思った本でした。ヴィバルディ氏は男性ですし、その他にも男性は書かれていますが、この小説には多くの女性が登場します。18世紀の女性がまだ社会的地位が低い時代を逞しく生きた女性の生きざまを描いた本といって良いでしょう。こんなに職業も年齢も何もかも違うのにお互いがひかれあって助け合って生きていきます。人とのつながりを感じる小説でした。

2024年 読書感想

毎年、12月は今年観た映画ベスト3を発表していましたが、今年は何と過去最低の15本しか観なかったのでベスト3を選べるほどの分母を持っておりません。従って映画より読んでいる本(実務書を除く)のBEST3を発表します。これは私が1年で読んだ本からなので世の中には素晴らしい本が沢山あることを付け加えて申し上げます。

1位:成瀬は天下を取りにいく・・・これは続編の成瀬は信じた道をいくまで読んでしまった今年読んだ本のお気に入りです。女の子が主人公なのもよく、空気を読まないながらもわが道を行く成瀬あかりに憧れの感情まで湧きました。成瀬のように生きたいと思った作品でした。

2位:デンマーク人はなぜ4時に帰って成果をだせるのか・・・これは理想の働き方を描いた作品でした。ジェンダーギャップもなく日本もこうなったらもっと女性も子供を産むという選択をするかと思います。日本もこんな風になってほしいと思いました。

3位:終わった人・・・3位は犬がいた季節や神時間力や水車小屋のネネと迷いましたが年末まで心に残っているのはこの作品でした。私は自由業なので仕事を辞める時期を自分で決められます。でもサラリーマンは気力や能力があっても強制的に辞めさせられます。その何とも言えない哀愁の中頑張る主人公を応援したくなる本でした。

テレビもですが、映画も最近あまり面白そうな映画をやらなくなりました。ですから来年の映画を観る本数も低迷すると予測されます。従って来年も読書感想になるかと思います。読書は自分の内面を開放し、様々な考えに出会える最大の機会だと思います。最近本を読まない人が多くなっていると聞きますが、本は読まないとその楽しさを理解できません。来年は本を読んでみませんか?

サクッとわかるビジネス教養 地政学

世界中に様々な国があるが至るところで紛争が起きている。なぜ紛争が起きているのかがこの本を読むとすごく分かります。日本やイギリスのような島国はシーパワーに属し、ロシア、中国、フランス、ドイツなどの大陸にある国はランドパワーに属します。ランドパワーはシーパワーより縄張りの意識が高く他の国からの侵略を恐れています。日本のようなシーパワーの国は海外から攻めづらかったから独立を続けられたのだとか、地政学を考えるとなぜロシアがウクライナを攻めているのかが分かります。アメリカと中国の冷戦や、石油などの物流に必要な海峡は重要だとか、島国でのんきに過ごしていた日本人にとっては目から鱗の事が沢山書かれています。

過去の戦争や紛争なども地政学を理解した上で考えるとなるほどなと思う事もあります。日本から見た地政学、アメリカから見た地政学、ロシアから見た地政学、中国から見た地政学、中東から見た地政学など様々な角度から地政学を見ていてとてもためになりました。政治家になる人は必須の科目だと思います。中東戦争などはなぜアメリカはイスラエルの味方になるのか?などはイスラエルはユダヤ人国家ですが、アメリカはユダヤ系アメリカ人が多数いる(しかも資産家も多い)などとても興味深いことも書かれています。おすすめです。

デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか

大共感の本でした。日本は結婚しても家事・育児の大半は女性が担います。でもデンマークでは男性も女性も正社員で働くのが当たり前で、家事や育児はほぼ半々で行います。どちらかに荷重が集中することはありません。ですから夫婦は運命共同体で協力体制が出来上がります。男性も積極的に家事・育児に参加するし、むしろ参加したいとさえ思っています。女性も正社員で働くのが当たり前で、男性に養ってもらおうなどという考えは微塵もありません。女性も仕事にやりがいを見出しており家庭も仕事も大事です。

ジェンダー不平等指数(DII)という数値があり、値は0(女性と男性が完全に平等な状態)~1(全ての側面において、男女の一方が他方より不利な状態:ほとんど女性が不利)で表しますが、デンマークは0.009で世界一不平等でない国です。ちなみに日本は0.078でまだまだデンマークの足元にも及びません。デンマークでは15時から16時くらいになると帰る準備をして帰ります。日本のように上司が帰らないから帰りづらいということもありません。それが当たり前なのです。なんのためにそんなに早く帰るのか。それは家族との時間を大事にしているからです。早く帰り家族全員で一緒にご飯を食べて、もし、仕事が終わっていなかったら子供が寝てから仕事をします。

みんな仕事が大好きで、でも家庭の方がもっと大事という感じです。仕事ではほとんどの人が会議に積極的に参加します。上下関係はあまり関係ありません。仕事上の反対意見もありますが、それは仕事の内容であって人格を否定しているわけではないので、反対意見でもお互いを尊重します。素晴らしいの一言でした。日本もそんな風になれば大人になっても楽しいし、結婚もしたいし、子供も育てたいと思う人が増えるような気がします。この本での働き方、そしてデンマーク人の考え方は私の理想とするものでした。だから私は日本では働きづらいと思っているのだと思います。だからと言って国家資格なのでこの国で仕事をするしかないのですが・・・価値観というものを見直すきっかけになる本です。

自分とか、ないから。教養としての東洋哲学

この本は電車中のポスター広告で見て、面白そうだなと思ったので読んでみました。荘子、龍樹、達磨、ブッタ、親鸞、老子、空海の7人の哲学論を超訳した本です。その道の専門家が見たら怒られそうなくらい超訳していますが、超訳しているからこそ、分かりやすいです。似ているけどちょっと違う事を言っているとか、空とか無とか道(タオ)とか出てきてなんとなく知っているけど、違いが分からないという人々に分かりやすく教えてくれます。7人の教えを聞いていると似ているけど、ちょっと違う事が出てきます、そうかと思うと全く逆なことを言ったりして、全部聞いた後は、何だか何でも良いのではないかと気が軽くなります。

面白いのは、哲学論の超訳だけではなく、7人の人物像も詳しく解説していて、それがまた面白かったです。良い家柄の王子だったのに家出して出家してしまったとか、一度も働いたことがないニートだとか、天才だけど見た目が凡人だとか言いたい放題ですが、これらの人の教え(哲学)に注目した本は沢山ありますが、その方と哲学を両面から見ているので、超訳(略しすぎ)でもとても印象が強く残ります。そしてそれらの人も意外と普通(むしろ社会不適合者)で、欠点もあり、とても身近な人にも思えます。まぁ、空海だけは別格でしたが・・・

これを読んでいる最中に私が尊敬している空海もダメ男だったらどうしようとちょっと怖かったですが、空海だけは期待を裏切らず、斬新でそして秀でていてますます尊敬してしまいました。あまり違いは分からないけど大雑把に東洋哲学を学びたいと思っている方に最適な本だと思います。詳しい人は怒るかもしれないので読まない方が良いかと思います。でも読み終わった後には完璧な人間なんていないし、哲学にも完璧はないのだと気持ちが軽くなる。そんな本でした。

水車小屋のネネ

この小説は500ページ近くもあるので夏休み課題図書にしましたが、夏休みだけでは読み終わらす、やっと読み終えたので感想を書きます。18歳と8歳の姉妹の女の子が二人で生きていくと決め、住み込みで働ける仕事をしながら周りの人たちとの助けも得ながらたくましく生きていく姿が描かれています。

18歳でありながら妹の律を養育しようと頑張るお裁縫が上手な姉の理佐、姉に迷惑をかけないようにわがままも言わない本が好きな妹の律。二人の生活は貧乏でしたが、周りの優しい大人に囲まれすくすくと育っていきます。そして水車小屋のしゃべる鳥(ヨウム)のネネがその姉妹にとっても大事な存在になります。ネネは鳥ですが、しゃべれるし、温かいし賢いので、周りの人は誰もが虜になります。そして仕事を持っています。水車が石臼でそば粉を引くのを管理しているのです。石臼の空引きは石に良くないのでネネはちゃんと見張っていて空になると「からっぽ」と教えます。それを聞いて新たなそば粉をいれて、引き終わったそば粉は蕎麦屋さんに持っていくのです。その仕事を何十年もしています。

少しずつ時は流れ姉妹二人とも大人になり、大人になって自分たちはどんなに周りの大人に助けられてきたのだろうと感謝して今度は助ける側にまわります。人はそうやって助け合って生きていくのだととても暖かい気持ちになります。40年間の歴史を描いているので途中、画家でネネの世話をしているおばあちゃんの杉子さん、理佐の最初の就職先の蕎麦屋の店主守さんなども亡くなっていきます。みんなでお葬式をします。この時、なんとなく最後にネネも亡くなるのかなと思いましたが、ネネは最後まで元気でそして賢い鳥でした。日常の何気ないことを描いた物語ですが、人は誰も一人で生きてはいけないという事を実感でき、助け合いながら生きていくことが充実した人生というのではないだろうか。と感じた本でした。暖かい気持ちに包まれます。最後の最後での律の笑顔が脳裏に焼き付きます。

遺伝子とは何か?現代生命学の新たなる謎

再び科学系の本を読みました。大学に入ってからほぼ理科系は勉強していませんが、小学生から高校生までは一番成績が良かったのは理科だったので、やはり、私は生物とか科学とかに興味があるのだと思います。本の内容はかなり専門的ですが、歴史的変遷が軸となって話が展開します。その昔、人は人の中に入っていてそれが大きくなって生まれると、まるでマトリョーシカのように考えられていた時代から、メンデルがエンドウ豆の実験で有名なその遺伝子の基礎を発見し、メンデルの発見から遺伝子学が発展してきたようです。

その後、ワトソンとクリックがDNAは2本の鎖状のらせん階段のような構造だと発見しましたが、それにはフランクリンとウィルキンスの実験結果があったから実現したということで、この2人を協力者としてワトソンとクリックが発表しなかったのは、科学者として大いなる倫理違反であると痛烈に批判しています。フランクリンはX線構造科学者で結局X線を浴びすぎて卵巣がんになり亡くなってしまうという結末を迎えます。この部分の記述はこの本の中で唯一クレバーな著者が感情を強く出していて、私も共感しました。

DNAのその後の話はmRNA,tRNAと続き、科学者らしく、かなり専門的になりますが、遺伝子の歴史的変遷を知るには良本です。著者は研究者であり科学者なので面白さを追求しているというより専門書に近い本です。ちなみにメンデルの法則が有名になったのはメンデルが亡くなってからのようです。当時は発送がかっとんでいて誰も相手にしなかったそうな・・・