ケースメソッド教授法入門

こちらの本は感想というより紹介になります。KBS(慶応ビジネススクール)のケースメソッドは有名で私も以前から興味がありました。大学や大学院の授業には講義形式の他に討議形式の授業もあります。習う側の本は多くありますが、教える側の本は日本では皆無です。この本は討議形式の授業を教える側の立場に立って学ぶための本です。私は20年前くらいから各種セミナーの講師をやっていますが、教える側の勉強を専門的に学んだことがありません。ただ、講義形式のセミナーは伝えたいことをできるだけ分かりやすく、できるだけ簡易にでも注意点などは強調してセミナーをしてきました。ただ、討議形式の授業は日本では高校までの授業ではほとんど行われておらず、大学でも少なく、大学院(ビジネススクール)でやっとやるかなという感じです。学ぶ機会も少ないのにそれを教えるなんて至難の業です。

海外では討議形式の授業は日本より多く、1962年にKBSがハーバード・ビジネススクール(HBS)へ教員を派遣してケースメゾットを学んでそれを持ち帰って、KBSでケースメソッドをで教えていました。KBSの内部でそれを洗練し教える側に立って書かれたのがこの本です。こんな本は見たことなかったのでとても参考になりました。この本に付いている帯にはすべての「教える人」のために!と書かれています。この本を一言でいうとそうなります。特に大学院の授業は講義形式だけではなく討議形式の内容も授業に組み込まれることが多いです。でも教える側はどうやってそれを進行していけばよいか。などを学ぶ機会は皆無です。実際講師側がやりたいようになっているというのが現状だと思います。

この本には具体的な技法が載っています。講義形式に慣れている講師だと話過ぎるのが難点でケースメソッドの場合は講師の発言は意識的に3割以下にする必要があるなど、具体的かつ能動的です。理由についてもきちんと書かれていて、納得できる内容です。ケースメソッドの講義は講義形式の講義より楽だと思っていましたがとんでもないという事にこの本を読んで気付かされました。それが効果的な講義になるためには講師の技量が欠かせないという事が分かりました。全てのセミナー講師に読んでもらいたい本です。特に講義形式のセミナーに慣れている講師が討議形式のセミナーをやる場合は必須なような気がします。講義形式に慣れていれば慣れているだけ討議形式のセミナーは全く違うということに早く気が付くためにもこの本はとてもお勧めです。

電子処方箋管理サービス

来年1月から電子処方箋の運用が始まりますが、医療機関が導入するにあたってはシステム改修などが必要になります。その費用を助成する補助金制度があります。電子処方箋の概要について詳しく知りたい方は下記の厚生労働省のHPへアクセスしてください↓
https://www.iryohokenjyoho-portalsite.jp/post-11.html
電子処方箋が良いか悪いかは別にして、いずれかは近い未来には電子処方箋に移行していくものと思われます。ですから早めに知識を取得してご自分の所属する医療機関にとって一番良い方法で導入されるのが良いかと思います。こちらのサイトにアクセスすると電子処方箋とは何?から始まってしかもyoutubeで説明されています。とうとうお国のシステムもyoutubuで説明する時代になったかとビックリしました。

電子処方箋管理サービスの導入をする場合、オンライン資格確認等システムを導入した上で、電子処方箋管理サービスを導入する場合、導入時に必要な費用の一部が補助される補助金があります。補助対象となる費用はHPKIカード等のICカードリーダー等の購入や電子処方箋管理サービス導入に必要なレセコンや電子カルテシステム等の改修。電子処方箋管理サービス等の導入に付随する保険医療機関等職員への実地指導等に係る事業などです。2023年3月31日までに導入した場合、病院は1,086,000円(費用の1/3)を補助金として貰えます。診療所や薬局の場合は194,000円(費用の1/2)を補助金とて貰えます。2023年4月1日以降ですと、補助金の額がそれぞれ少なくなって病院815,000円(費用の1/4)診療所・薬局129,000円(費用の1/3)となります。導入を考えているなら来年3月までの導入をお勧めします。細かい内容は次のPDFをご覧ください。→電子処方箋管理サービス補助金

クラウドファンディング注意点

クラウドファンディングには主に支払者に対して商品やサービスなどのリターンを提供する購入型と、リターンがない寄附型があります。受け取り側は法人の場合もありますし、個人(個人事業主を含む)の場合もあります。まず、購入型ですが、入金があった後にリターンを返しますから、期間がずれます。法人の場合決算日にまたがって入金とリターンがある場合、どちらの期の収入にすれば良いのかという問題が生じます。これはリターンをした日の属する期の収入とします。ですから仮受金などの会計処理で受けておいてリターンを返した時に費用と収入(売上もしくは雑収入)を計上します。サイト運営者に手数料を支払う場合、手数料を控除した残額が振り込まれますが、残額だけを収入計上するのではなく、総額で収入と費用(手数料)を計上します。購入型の場合、売買契約と扱われるため消費税も課税取引となるので総額で計上しないと簡易課税の場合、売上計上漏れになりますので注意が必要です。

次に寄附型ですが、寄附型はシンプルで貰った金額を受贈益(雑収入)に計上すれば良いのです。受け取ったのが法人ですと、雑収入処理で終わりですが、受け取るのが個人ですと少し複雑になります。購入型で個人事業業にかかるクラウトファンディングであれば、事業所得の収入としなければならないし、個人事業にかかるものでなければ雑所得として申告します。また、寄附型の場合、出してくれた人が個人か法人かによって取り扱いが異なります。出してくれた人が個人で貰ったのも個人の場合、贈与税の対象となりますが、その年の贈与の金額が110万円以下であれば贈与税の申告は必要ありませんが、110万円を超えると贈与税の申告が必要になります。出してくれた人が法人なら貰った金額はその個人の一時所得の対象となり、50万円の特別控除を超えると課税されます。色々税務では複雑なクラウトファンディングです。

インボイス申請注意点

インボイスの申請が始まっています。当事務所でも何件か申請をいたしました。申請の正式な名称は「適格請求書発行事業者の登録申請書」です。e-taxか郵送で行います。記載事項は少なくあまり間違えないように思います。ただ、個人事業者の場合、注意が必要です。「適格請求書発行事業者の登録申請書」だけ提出すると、インボイス申請の検索をした時、個人名(例えば吉田久子)だけが載ってきます。もし屋号も載せたければ「適格事業者の公表事項の公表申出書」も併せて提出する必要があります。

これを提出すると、検索をかけた時、屋号(例えば税理士吉田久子事務所/リライアンス東京行政書士事務所)や事務所の所在地(例えば東京都豊島区西池袋5-5-21ザ・タワーグランディア701)も表示されるようになります。個人で事業を営んでいる場合はできれば屋号表示したいですよね。その場合、忘れずに「適格事業者の公表事項の公表申出書」も提出して下さい。国税庁のe-tax申請の場合、それを促すシステムになっているのですが、紙申請だとうっかり忘れそうです。ご注意下さい。

アキラとあきら

御存じ池井戸潤氏の小説を映画化したものです。池井戸氏の作品は企業ドラマものが多く私も好きな作品だらけです。この小説は珍しく読んでいなったのですが、映画だけ観ました。感想は一言でいえば相変わらず面白かったです。銀行と企業の駆け引きのような部分も感じましたが、こんなに親身になってくれる銀行員もいるのか?いるなら会いたいとさえ思いました。物語の解決方法も高額なコンサルタントファームがやりそうな手法で銀行がここまでしてくれるのならコンサル会社は必要ないなと思うような解決方法でした。

映画の最初の方で新人研修で優秀な2チームが銀行側(貸すか貸さないかを判断)と企業側(借りられる書類を作る)に分かれて、対決するのですが、企業側が粉飾決算を行い、銀行側が見事それを見破るという展開でした。この粉飾決算に使われた手法が棚卸資産の割増し(他社所有の金型を自己所有棚卸として計上)と現金の過大計上でした。この結果だけ聞くと会計を知らない人は何が何だか分からないと思いますので説明すると、棚卸資産は多いほど売上原価が少なくなります。売上原価の計算は(期首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高)なので、本当は期首棚卸100億円+当期仕入高1,000億円-80億円だったとしたら、売上原価(費用)は1,020億円になります。でも期末の棚卸を多くして120億円と架空計上したとしたら、100億円+1,000億円-120億円で980億円になります。売上原価は費用項目ですから棚卸を架空計上するだけで利益が40億円増えることになります。利益が沢山出ているからお金貸してねと言うのです。

会計をちょっと知ってる人ならすぐ分かりますが、最後の物語の解決方法も会計を知っていれば、そうか!その手があったかーを唸るような手法でした。勿論会計を知らなくても、粉飾決算だったのかとかは分かるので充分楽しめます。でも会計を知っていればより深く楽しめるそんな映画でした。

雑所得改正1

雑所得の改正が行われそうです。「事業所得」と「業務に係る雑所得」は違いが不明瞭だからです。でも税務上の差異ははっきりしていて、事業所得の場合、損益通算ができます。つまり、給与所得がある人が事業所得もあって、事業所得が赤字の場合、給与所得から事業所得の赤字を控除して税金の計算ができます。その他事業所得で青色申告の場合、更に様々な税金特典があります。業務に係る雑所得は令和2年の確定申告から雑所得の区分に新たに加えられた区分で令和元年までの確定申告書には雑所得の区分は①公的年金等と②その他しかありませんでした。それが令和2年から雑所得の区分は①公的年金等②業務③その他になりました。

税法上取扱にかなりの差異がある事業所得と業務に係る雑所得ですが、同じような所得でも事業所得とすれば税務上かなり特になり、業務に係る雑所得とすれば赤字でも損益通算できないという大きな違いがあります。規模も大きくない副業を事業所得として申告して給与所得として損益通算するという事例も多くなってきたようで、改正が行われそうです。改正案の内容は下記の通り→雑所得改正これで問題になるのは、フリマアプリでのプレミアム販売、フリマアプリを使った反復同製品の販売や、給与所得がある人の副業のような事業所得ではないでしょうか。

まず、フリマアプリでの販売は通常家庭にあった不用品の売却が主なものなので購入価格よりかなり低い価格で売買されています。これは問題ないかと思います。ところが買った価格よりもかなり高い価格での販売(いわゆるプレミアム商品)の売買は要注意です。生活に通常必要な資産の譲渡は非課税ですが、その非課税から除外されそうです。また、フリマアプリですが、実際には決まったものをどこからか仕入れて複数販売している事例もあります。これは元々課税対象ですが、実際には申告をしていない人も多いのではないでしょうか。

次に、会社員が副業するのも多くなってきました。節税対策として副業分を事業所得として申告し赤字にして本業の給与所得と損益通算するというのが危険になるということです。ただ、ここでの改正で危険だと思うのが300万円判定です。収入が300万円ないと反証のない限り業務にかかる雑所得と取り扱って差し支えないとあります。そこで300万円以上でないから雑所得にしなければならないと考えるの早計です。年間300万円なくてもそれが副業でなく細々とやっている事業なら事業所得として扱えますし、例え給与所得があったとしても退職後の事業のために会社員時代から起業するのもあり得るからです。ですから単に300万円判定とするのではなく、実情を加味して事業所得として申告することもできるのでその辺は要注意です。今回、改正案について意見を言える機会(パブリックコメント募集)が与えられたので、金額判定(300万円基準)で単に判定するのは断固として反対!の意思を伝えました。

台湾交流

東京税理士会豊島支部の法対策部は台湾の記帳士会(台湾の税理士)と長い間交流しています。毎年1回、お互いの国を訪問して交流を続けていたのですが、コロナ禍になりこの2年交流が途絶えていました。今年は初めてWEBでの交流を先日行いました。毎回お互いに質問したい事項を予め提示してその発表をするというのが主な流れです。今年、台湾から質問されたのはマネロン防止措置と国際的租税回避防止措置について。日本から質問したのはインボイス導入に当たってのメリットと苦労した点と成功の秘訣です。

台湾では税理士がマネロン防止規定にかなり関わっているのですが、日本の税理士はマネロンにあまりかかわりは有りません。国際的租税回避防止措置については、日本には①移転価格税制②過小資本税制③タックスヘイブン税制がある旨があることを説明しました。短い時間で通訳を通して行うので通常よりも多くの時間を要するでいかに短い文章で説明するかということで行われました。

インボイス導入については、台湾は1999年には電子インボイスが導入されていたので日本よりかなり早くからインボイス導入をしています。ただ、台湾は始めは紙のインボイスから始まり今は電子インボイスですが、紙のインボイスを用いる組織もまだあり電子インボイス普及率は58%です。説明は紙でのインボイスに比べ電子インボイスは、消費者にとっては、その場で当たりかどうかわかる(台湾はインボイスに宝くじのような制度を付加してます)事業者にとっては、紙での保存がなくなり紛失リスクがなくなり、かつ領収書代わりになる。社会にとっては、紙がいらなくなるのでコストが削減できるばかりではなく地球環境にも配慮できる。というのがメリットのようでした。

苦労した点は、消費者側からすればキャリア仕様の認識が足りずキャリア仕様に慣れていない。事業者側からは、企業の社内に電子インボイスシステムがないので別のシステムから通じて電子インボイスを発行するので経理担当者の負担とコストの増加がある。社内の経理担当者には受け入れにくいこと。政府側からは、国有企業がまだ電子インボイスを導入していないため見本にならない。などの苦労があるようです。成功の秘訣としては、2000年に電子インボイスの試行を開始しましたが、それまでは紙のインボイスだったため数々の試行が試されて、くじの懸賞金を多くしたり、ペーパーレス電子インボイスをクラウド型発票にしたり、広報や推薦を促進したりしています。消費者側の苦労、事業者側の苦労は日本でも同様の事が起こりそうです。インボイス導入には、まず便利でなくてはいけないと思います。インボイス導入により経理側に負担があるようでは導入は進まないと個人的に思います。さて、日本のインボイスはどうなるのでしょうか?