ご存じ本屋大賞で大賞を取った作品です。羊と鋼?そして森?謎だらけの題名でしたが、これはピアノの事です。羊の毛からできたフェルトのハンマーで、鋼である弦により音を鳴らすと森の中にいるようなメロディーを奏でることができます。
主人公である少年が高校生の時に体育館にあるピアノの調律をしている場面に出くわし、その森の中にいるような感覚にさせられる音に魅せられて、調律師になりたい。と思います。そこで実際に調律をしていた調律師に弟子入りさせてくれと頼んだところ、調律の専門学校に行くように諭され専門学校に行き、あこがれの調律師がいる会社に入社します。
それぞれ個性のある先輩達に支えられながら調律師として成長していく少年の生き方みたいなものが描かれています。本文の中に彼の覚悟のような文章が書かれています。
僕には才能がない。そう言ってしまうのは、いっそ楽だった。でも、調律師に必要なのは、才能じゃない。少なくとも、今の段階で必要なのは、才能じゃない。そう思う事で自分を励ましてきた。才能という言葉で紛らわせてはいけない。あきらめる口実に使うわけにはいかない。経験や、訓練や、努力や、知恵、機転、根気、そして情熱。才能が足りないなら、そういうもので置き換えよう。もしも、いつか、どうしても置き換えられないものがあると気づいたら、そのときにあきらめればいいではないか。怖いけど。自分の才能のなさを認めるのは、きっととても怖いけど。
そんな彼に先輩が答えます「才能っていうのはさ、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか。どんなことがあっても、そこから離れない執念とか、闘志とか、そういうものと似ている何か。俺はそう思うことにしてるよ」
私から言わせれば少年はとても才能があると思います。何故なら高校の体育館で調律を行っていた調律師は世界的にも有名なピアノの奏者に調律の指名を受けるほどの名手です。その音を何の情報も得ずに聞き分けられていたのですから・・・でも少年の自信のなさ、立派な調律師になりたい。という夢は少年をひたむきに努力する行動へ駆り立てました。きっと将来、有能な調律師になるでしょう。とても読み終わった後に余韻が残る本でした。メロディーの描き方も見事で読んでいるのに頭の中に音とイメージがはっきりわかる素敵な本でした。