おまじない

8つの短編小説から構成されています。その中で特に印象が残ったのが「孫係」主人公すみれは12歳の女の子。父親も母親も素直に感情を表現する素敵な人でした。ところが、すみれはどこか冷めているというか、正直運動会ってなんだよと思っているし、ピアノの発表会もプロになるわけじゃないのにと思っている。同級生も嫌いじゃないけど結構な頻度でガキっぽいと感じているし、放課後までいちゃいちゃしたがるのはしんどく思っている。観察力があり先生や大人の前だとうまくふるまえる。そんな自分をタチが悪いと思っていてすごく嫌いになります。汚いずるい人間だと・・・

ある時、おじいちゃん(母方の)が1カ月間一緒に住むことになりました。口では「おじいちゃまが来てくれて嬉しい」なんて言っておいて実は早く帰ってくれないかなと思っています。とても気を遣い自分の部屋で毎日ぐったりしてしまう有様。そんな自分も嫌いになります。ある日、おじいちゃまが散歩中でお母さんが買い物に出かけて家で1人になった時、「ひとりになりたいなぁ」と2回も独り言を無意識で言ってしまいます。その時ガタッと音がして、「すみれさん、私もです」とおじいちゃんが言います。「娘だし色々気遣ってくれるのは嬉しいんですけど、こうもまっすぐ愛情をぶっつけられたら、すごく疲れるんですよ。私もひとりになりたい。早く長野の家に帰りたいです」と・・・

それから二人は本音で話します。そしておじいちゃんが提案します。「すみれさんは、孫係。わたしは、爺係。この1カ月それぞれ係をきちんとつとめあげませんか?私の娘(すみれの母)のために。すみれさんのお父さんのために。」そのアイデアはすみれにとっても素敵な案で二人は悪い秘密を共有したギャングみたいな関係になりました。それぞれの係をこなし生活ができました。おじいちゃんは悪態をつける唯一の存在です。そして言います。「人はそれを陰口だとか卑怯だと言うかもしれない。性格が悪いとか。でもね。すみれさんがそう振舞うのは友達を傷つけたくないからでしょう?先生の期待に応えたいからでしょう?それは思いやりの心からくるのです。」

「それは誰かを騙しているのとは違う。騙して、それで得をしようとしているのではないのだから。ここが大切です。つまり得をしようと思って係につくのはいけません。あくまで思いやりの範囲でやるんです。その人が間違っていると思ったら、そしてそれを言うことがその人のためになるのだったら言わなければいけないし、相手を傷つける覚悟をもって対峙しなければいけない。でも、その人が間違っていないとき、ただ性格が合わないだけとか、その人の役割的にそうせざるを得ないと分かるときは、その人の望む自分でいる努力をするんです。」この言葉を聞いてすみれは自分は悪い子だという思いが和らぎます。むしろいい子だ。思いやりがあるからそうすることができる。と・・・おじいちゃんの言葉、深いですね。