流浪の月

今年のゴールデンウィークの(私が勝手に決めた)課題図書は2020年本屋大賞受賞作品です。子供のころ、伯母の家に住んでいた小学生の更紗は、ある理由により家に帰りたくない衝動にかられます。その時保護してくれたのは大学生の文です。更紗は文の家にいた時、自由に伸び伸びと暮らします。更紗がパンダが見たいと言い出して、動物園に行った時、テレビで行方不明になっている少女だとバレてその場で文と離れ離れになります。文は小学生の女の子を誘拐したロリコン犯として警察に捕まります。更紗が文のことを良く言えば良く言うほど洗脳されていると言われ可哀そうな子供として扱われます。自分の意志で文について行ったのに・・・文との日々は自由に生きられた日々だったのに・・・。

そのまま文と会えぬまま更紗は大人になります。あの事件から15年後、偶然、文を見つけます。更紗はストーカーのように文に会いに行きます。でも声はかけません。自分がちゃんと言えなかったばっかりに、少年院に行くことになった文・・・自分は子供から大人になったけど、文は15年経っても全く変わっていなかった。そこから物語が展開していきます。更紗は男としてではなく、人として文が大好きです。そして文もまた更紗を女としてではなく人として好きなのです。この二人は一緒に過ごしカフェをやります。お互いにそれを望んでいないので男と女にならないまま一緒にいます。お互いに特別で大事な人というのは変わりません。

「事実と真実は違う」これがこの本のテーマです。9歳の女の子が19歳の男に誘拐されたことも事実ですが、真実ではない。そして、誘拐犯と被害女性が一緒に住んでいるというのも事実ですが、真実ではない。つまり、二人は通常の夫婦のような関係ではなく、もっとそれを超えたものです。男女一緒にいるとすぐに男女の関係を連想しがちですが、そういった関係ではなく一緒にいて居心地の良い関係というのは存在します。友達でもない。夫婦でもない。恋人でもない。これを何という関係なのだろうと思います。でも私もそれは良く分かります。夫婦や恋人のようなことはしない。でも精神面ではそれを超えた存在。とても良く分かります。これを何というのでしょうか?未来にこれを形容する言葉ができるでしょうか?