アップルソング


この本は茉莉江という一人の女性の出生から終わりまでを綴っていますが、茉莉江の周りにいた様々な人を通して描かれています。その中で一番初めに描かれる美和子と茉莉江の関係が全く分からずにいました。何となく雰囲気からして茉莉江の生き別れた子供かなとも思いましたが、途中で茉莉江が流産した事を知り、えっじゃあ誰?と益々気になりました。茉莉江と美和子は血が繋がっていませんでした。それなのに何故美和子は渡米してまで茉莉江の足跡を辿ったのか・・・最終数ページでその謎が解けました。

茉莉江はB29の戦火の中から拾われた赤ん坊で、成長して戦争などを扱う報道カメラマンになりました。その茉莉江の一生を様々な視点から描かれていくのですが、これ本当にフィクションなの?というのを超えて、これは本当に経験しなければこんな風には描けないのでは?と思う位リアリティに溢れ、ぞくぞくする小説です。生まれたばかりの赤ん坊から50代後半位までの茉莉江が描かれていますが、それは私が理想とする女性の成長でした。茉莉江という女性は成長するたびに魅力的になっていくのです。30代の茉莉江より50代の茉莉江の方が明らかに魅力的です。

最後に美和子が渡米先で聞いた茉莉江のボストン大学での講演のテープに録音されていた茉莉江の言葉が特に印象的でした。「この会場にいる人たち全員が、望むと望まざるとにかかわらず、戦争にかかわっている、~省略~ 人の本質は、悪なんだと、私は思っています。それは歴史が証明しています。人類の歴史は、戦争の歴史なのです。・・・・・悪を持たないのは、動物だけです。しかし、私は信じています。悪を包み込む善があれば、悪を塗り替えてしまえるほどの美があれば、人は悪を孕みながらも、平和に幸せに、生きていけるはずなのだと。私は信じたいのです。必要なのは善と美です。これは、私たちが努力していけば創造していけるものなのです。そうなんです。創り出していけるのです。意識して、努力をすれば、平和も幸福も実現できるし、得られるのです。人として為すべきことは、悪を包み込む善と美を、それぞれの人間が、それぞれの能力を使って、日々、創造することではないかと私は思っています。・・・・・」