税務には税理士を不安にさせる総則6項という規定があります。これは、通常のルールでは実態とかけ離れた評価になる場合などに適用される特別規定で、タワーマンション事件をきっかけに国税当局がこの総則6項を使い、納税者の評価を否認するという、いわゆる「伝家の宝刀」を使って無理やり課税するという恐ろしい規定です。タワーマンション事件は仕方ないとしても、今回の判決は非上場株の相続の評価を巡ったものです。税理士はもちろん非上場株式の通常の評価を適用して相続税の申告をしました。ところがS税務署はこの評価は著しく低いとして総則6項を使い追加の相続税を4億円課してきたのです。
もうやりたい放題です。相続税基本通達通りの評価をして1株8,186円で評価して申告しましたが、国税は専門会社に価格算定をして1株80,373円としたのです。10倍近い額です。これは国税側がディスカウントキャッシュフロー法で評価したもので、通常M&Aなどに使われる評価方法です。M&Aと相続では全然違うので、これをやられたら税理士側としてはひとたまりもありません。もちろん納税者側は控訴して今回、国税側の敗訴確定となりました。
相続税評価通達というのがあるのに、それに則って評価したら否認されるとなれば税理士はどうしたら良いのでしょうか?そもそも時価というのは曖昧で不確実性があるからこそ、この評価基準があり、相対的に相続税評価通達は一般の時価より2割~3割安くなっています。それが時価が半分以下だからと言って伝家の宝刀を使いまくったら国としてどうなのだろう?と思っていました。今回、裁判官が適切な判定をしてくれて良かったです。こんなことをしょっちゅうやられていたら税理士としては相続税の申告は受けることさえリスクがあると感じてしまいます。とりあえずほっとした判決でした。