国宝

今、映画でも公開されている国宝ですが、小説国宝を上下巻読みました。上下800ページ超えの大作です。主人公喜久雄は任侠一家に生まれ母は病死、父はお正月の宴で殴り込みに合い亡くなります。その後、梨園の道に入り精進し三代目花井半次郎を襲名して一生を終えるまでを描いています。波乱万丈な一生でした。極道の親分の家の長男(しかも一人っ子)として生まれ、早くに両親を亡くし、梨園の世界に入り、良いときは本当に運と実力が実り開花し、悪いときはどん底までたたきつけられる、そんな人生です。物語が長かったので、何日もかけて読みましたが、悪いときはこちらもプライベートで落ち込むほど落ち込み、良いときは生きることに喜びさえ感じる。それほどに入り込んだ小説でした。

芸を磨いて精一杯生きていても、任侠一家の出だから報道でのいじめにあったり、二代目半次郎が亡くなった後は後ろ盾がなくなり、実力があるのに舞台に出してもらえない。出してもらえても端役しか与えられない。凄惨ないじめに合うなど。それでも生きていくために舞台とは言えないような地方巡業の仕事をしたり。梨園の血を求めてその娘と結婚しても親には許されず苦虫を嚙み潰したような生活。恩人の極道に宴会芸を頼まれ、周りの人の反対にあうも踊りその場に警察が入り週刊誌の格好の餌食。でも、恩がある相手には自分の立場が悪くなると知っていても義理を押し通す。それは梨園で育て上げてくれた花井家の借金を自分が引き継ぐというところにも表れます。人生の半分くらいが悲惨な人生。あとの半分がスポットライトを浴び無形文化財の国宝に認定されるほどの華やかな人生。人の人生とは一生おしなべるとプラスマイナス0なんだと感じるような小説でした。ブレが大きいか小さいか。ブレが非常に大きい人生です。

この小説に出てくる女性の逞しさにも考えるものがあります。早くに亡くなった極道親分の妻の母は次の義母マツに喜久雄は極道にしないでほしいと頼み、義母のマツはそれを守ります。マツは家業が無くなり自分の生活も苦しいのに喜久雄を預かって貰っている花井家に毎月大金を送っています。梨園側の花井半次郎の妻の幸子も自分の子である俊介ではなく、半次郎の代役に喜久雄を選んだ夫に腹を立てながらもそれはそれで納得し喜久雄を世話します。幼馴染の春江は喜久雄の恋人だったはずだったが俊介と駆け落ちし落ちぶれた俊介をささえます。舞妓の市駒はまだ無名の喜久雄に妻にはならなくて良いから2号3号にしてくれと言い実際に喜久雄の子を産み一人で育てます。彰子は喜久雄の妻ですが愛されていないと知っても喜久雄を愛し支えていきます。曽根松子は彰子の親戚ですが後ろ盾のない喜久雄を助けます。何ともこの時代に生きる女性の逞しさをも感じた作品でした。