医療法人の設立1

個人で病院や診療所を経営する場合、確定申告の事業所得として納税をすることになります。個人で経営する場合、所得税では課税総所得金額(所得控除をした後の金額)が195万円以下の5%から1,800万円以上の40%までの超過累進課税制度(5%・10%・20%・23%・33%・40%)が採用されています。住民税は一律10%です。つまり、所得が少ないと15%(所得税5%+住民税10%)の税率ですが、所得が多くなると50%(所得税40%+住民税10%)の税率が課されることになります。

このような事から節税目的で医療法人化するケースもあります。法人税の税率は18%(年800万円以下の部分)でそれを超えると30%です。法人都道府県民税は地方によって多少違うものの17.3%(例:23区内都道府県民税相当額5%・市町村民税相当額12.3%)であり、法人税額が1,000万円を超える法人については20.7%(23区内都道府県民税相当額6%・市長村民税相当額14.7%)です。その他に事業税が課税されますが、社会保険診療報酬(国保・社保等)は事業税法上非課税なので、株式会社等に比べ事業税は圧倒的に少なくなります。

そう考えるとあまり所得が大きくない時は個人経営が有利で、ある程度所得が大きくなってきたら法人経営が有利ということになります。

ただ、税金の有利不利だけで法人設立をすると危険です。私の顧問先では、納税的には法人化した方が有利ですが、敢えて法人化しないという顧問先もいます。

法人化すると有利な事は信用力が高まるとか、組織力が高まるというメリットもありますが、都道府県の監視が高まるとか税務申告が自分でできなくなるなどというデメリットも生じます。

私が一番メリットだと感じていることは事業の承継の時です。個人事業ですと、院長が逝去した場合、子供に事業を引き継ぐとき、一回廃業の手続きをして新たに開業の手続きをしなければなりません。その間タイムラグが生じ、診療が出来ない時期が生じます。そして医療事業に係る資産について全て相続税の対象となり、事業自体を続けるのが難しくなる場合があります。それに比し、法人化しておくと理事長・院長交代の手続きだけで済みタイムラグがなく、スムーズに事業承継することができます。また、相続税についても、法人の資産については、個人の相続税の対象になりません。持分の定めのない社団医療法人ですと、基金については、当初出資基金だけが課税対象となり、含み益については課税されませんが、持分の定めのある社団医療法人ですと含み益も考慮した出資持ち分について課税されます。現在の医療法では持分の定めのある社団医療法人の設立はできませんので、今後、医療法人設立を目指す方はこの心配はありません。

後継者が育ち、自分の事業を任せられる状態になった時は、法人化の検討も必要かもしれません。