生かさず、殺さず

この本のタイトルを見た時、ちょっと嫌な気持ちになりました。なんとなく、週刊誌の表紙を見ているような気分になったのです。でもパラパラめくっていると痴呆症で、かつ、疾病を抱える病棟の専属の医師の物語だったので読むことにしました。長寿社会の日本では痴呆を抱えた人は年々増加しています。私の周りにはまだ認知症はいなく実際に認知症を見た事もないので認知症というのがどのようなものなのか。また、それに携わる医師や看護師はどのように接するのかを知りたくて読みました。

認知症は病気ではないと知っていましたし、治るものでもないというところまで知っていました。でも同じ認知症でも色々と種類があり、特に疾病を抱えている状態だと治療説明しても理解されなかったり、治療選択をするのも大変で、家族がどう考えるかにより治療内容も変わっているというのがよく分かりました。実際に触れ合う話を読むことにより、しかも医学的な見地からも考察できてとても為になったというのが感想です。

最後の方でこの本のタイトルである生かさず、殺さずについて触れていますが、本来の解釈は「百姓は米が足りないと困るから不足のないように、余ると仕事に励まなくなるから余らないように年貢を取る」という意味らしく、これも認知症の患者さんの治療にも当てはまるのではないかと言っていました。認知症の患者を無理に生かそうとするのも無理に死なそうとするのもよくない。その人にとって必要な事を過不足なくするのが、ほどよい医療ということでした。