医療法人の設立2

株式会社はいつでも開設することができますが、医療法人は年2~3回設立しようとする医療法人の都道府県によって開設時期が決められています。都道府県のホームページを見ると自分の都道府県の開設時期が分かります。医療法人は都道府県知事の認可を受けなければ、設立することができません(医療法44①)そして設立する場合には定款(社団)または寄付行為(財団)で一定の事項を定めなければなりません(医療法44②)

まず、社員・理事・監事・評議員の選任をしなければなりません。

社員・・・社員総会で法人運営の重要事項についての議決権を有する者。自然人でなければならない。法人は出資はできても社員にはなれません。

理事・・・実際に業務執行をする者。理事は3人以上、監事は1人以上置くことになっています(医療法46の2①)欠格事由がある人は理事になることはできません。

監事・・・株式会社でいう監査役と同様の業務執行を監査する者。監事の職務については医療法46の4⑦で定められています。監事は、理事又は職員を兼ねてはならないこととされています。理事又は監事のうち定数の5分の1を超える者が欠けた時は1カ月以内に充当しなければなりません。(医療法48の2)

評議員・・・医療法人の業務若しくは財産の状況又は役員の業務執行の状況について、役員に対して意見を述べ、諮問に答え、役員から報告を徴する者。財団である医療法人は必ず置かなければならず、社団であっても特定医療法人には置かなければなりません。その他の医療法人であれば、評議員は必要ありません。理事長は毎会計年度終了後3カ月以内に決算及び事業の実績を評議員会に報告し、その意見を求めなければなりません。評議員は医療法人の理事、監事を兼ねることはできません。

医療法人の設立1

個人で病院や診療所を経営する場合、確定申告の事業所得として納税をすることになります。個人で経営する場合、所得税では課税総所得金額(所得控除をした後の金額)が195万円以下の5%から1,800万円以上の40%までの超過累進課税制度(5%・10%・20%・23%・33%・40%)が採用されています。住民税は一律10%です。つまり、所得が少ないと15%(所得税5%+住民税10%)の税率ですが、所得が多くなると50%(所得税40%+住民税10%)の税率が課されることになります。

このような事から節税目的で医療法人化するケースもあります。法人税の税率は18%(年800万円以下の部分)でそれを超えると30%です。法人都道府県民税は地方によって多少違うものの17.3%(例:23区内都道府県民税相当額5%・市町村民税相当額12.3%)であり、法人税額が1,000万円を超える法人については20.7%(23区内都道府県民税相当額6%・市長村民税相当額14.7%)です。その他に事業税が課税されますが、社会保険診療報酬(国保・社保等)は事業税法上非課税なので、株式会社等に比べ事業税は圧倒的に少なくなります。

そう考えるとあまり所得が大きくない時は個人経営が有利で、ある程度所得が大きくなってきたら法人経営が有利ということになります。

ただ、税金の有利不利だけで法人設立をすると危険です。私の顧問先では、納税的には法人化した方が有利ですが、敢えて法人化しないという顧問先もいます。

法人化すると有利な事は信用力が高まるとか、組織力が高まるというメリットもありますが、都道府県の監視が高まるとか税務申告が自分でできなくなるなどというデメリットも生じます。

私が一番メリットだと感じていることは事業の承継の時です。個人事業ですと、院長が逝去した場合、子供に事業を引き継ぐとき、一回廃業の手続きをして新たに開業の手続きをしなければなりません。その間タイムラグが生じ、診療が出来ない時期が生じます。そして医療事業に係る資産について全て相続税の対象となり、事業自体を続けるのが難しくなる場合があります。それに比し、法人化しておくと理事長・院長交代の手続きだけで済みタイムラグがなく、スムーズに事業承継することができます。また、相続税についても、法人の資産については、個人の相続税の対象になりません。持分の定めのない社団医療法人ですと、基金については、当初出資基金だけが課税対象となり、含み益については課税されませんが、持分の定めのある社団医療法人ですと含み益も考慮した出資持ち分について課税されます。現在の医療法では持分の定めのある社団医療法人の設立はできませんので、今後、医療法人設立を目指す方はこの心配はありません。

後継者が育ち、自分の事業を任せられる状態になった時は、法人化の検討も必要かもしれません。

医療法人の理事

医療法人の理事は、実際に業務執行をする人のことです。株式会社では取締役のようなものです。理事の定数はその法人の定款で定めなければなりませんが、医療法では理事は最低3人以上、監事は1人以上いなくてはなりません(医療法46条の2①)
ただし理事については都道府県知事の認可を受ければ1人又は2人の理事でもよいことになっています。しかし、この認可を受けた法人は極めてまれで、通常は3人以上となっています。

また、病院や診療所、介護老人保健施設の管理者は原則として理事でなければならないので、施設が多い法人は理事の数も多く必要となります。

次に該当すると、理事になることはできません。(欠格事由)
①成年被後見人又は被保佐人
②医療法、医師法、歯科医師法その他医事に関する法令の規定により罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して2年を経過しない者
③上記②に該当する者を除くほか、禁固以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることができなくなるまでの者

理事の任期は、2年を超えることはできませんが再任をすることはできます。

では、破産をしたらどうでしょう?弁護士、司法書士、公認会計士、税理士、宅地建物取引主任者、保険外交員など、他人の金銭や財産に関わる職業についている人は、免責を受けるまでは業務停止となります。しかし、医師は他人の財産を管理するのではなく、生命を管理する職業ですので、破産による業務の制限を受けません。従って、医療法人の理事が破産しても欠格事由には該当せず、理事を継続することが可能です(医療法46条の2②)

医療法人は営利か非営利か

医療法人は、公益法人より公益性がないけれど、株式会社などの営利法人より公益性はあるという状態が永いこと続いています。業務に制限があるという点で公益法人に近く、課税上は株式会社に近い(ただし事業税・消費税は例外)という特徴があります。このように複雑な状態が半世紀以上も続いているため、医療法人は分かりにくい・難しいという概念を持ってしまった方もいます。

医療法人は営利でしょうか?それとも非営利でしょうか?

医療法では医療法人は非営利であると規定しています。それは医療法第54条 医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。という条文に表れています。株式会社は株主に対し配当金という株主利益還元方法がありますが、医療法人はそれを禁止しています。
だからといって、非営利であると言い切れるでしょうか?平成19年の医療法改正時に株式会社が医療業務に参入できるか否かが吟味されたことがあります。その時に厚生労働省が示した答えが医療法人は非営利なので営利法人である株式会社は参入できない。というものです。その際、医療法人は確かに医療法で剰余金の配当が禁止されており、毎期の配当は行っていないが、社員退社時や解散時は時価での払い戻しが実際に行われてきた経緯があり、これは毎期の配当ではないが、毎期の配当を積み立てていて退社時等に一括して支払ったのと変わりがないではないか?という疑問がぶつけられました。つまり、実質的な配当が行われていて、剰余金配当禁止規定は形骸化しているのでないか?という意見です。

そこで、平成19年4月の医療法改正では、退社時に時価払戻しができる組織形態である「持分の定めのある社団医療法人」の新規設立を禁止し、税務上も時価払戻が不可能な「持分の定めのない社団医療法人または財団医療法人」でしか新規設立ができなくなったのです。

事業報告書等の作成

医療法人は事業年度終了の日から2月以内に所轄税務署長に税務申告書を提出するのは株式会社などと同じですが、そのほかに都道府県知事に事業年度終了後3月以内に事業報告書等と届け出なければなりません。
事業報告書等は下記の書類になります。

1.事業報告書・・・医療法人の名称、種類(社団か財団か、持分ありか持分なしか、種類や基金の有無等)所在地、設立認可年月日、設立登記年月日、などを記載します。

2.財産目録・・・資産額、負債額、純資産額を記載します。また法人使用土地建物について自己所有か賃貸かを記載します。

3.貸借対照表・・・様式は4つありますが、病院・介護老人保健施設を開設する医療法人はより細かく記載し、診療所のみを開設する医療法人については、大まかな貸借対照表で構いません。

4.損益計算書・・・様式は2つありますが、これについても、病院・介護老人保健施設を開設する医療法人はより細かく記載し、診療所のみを開設する医療法人は大まかな損益計算書の記載で構いません。

5.監事監査報告書・・・監事の業務は業務監査と財務監査です。監事に監査してもらい記名・押印してもらいます。

また、社会医療法人債を発行する社会医療法人は公認会計士又は監査法人が作成した監査報告書を事業報告書と一緒に提出しなければなりませんが、社会医療法人債を発行している社会医療法人は稀ですのでその点はあまり気にする必要はありません。

事業報告書を事業年度終了後3ヶ月以内に提出しない場合や、虚偽の届出を行った場合にはどうなるのでしょうか?その場合は医療法76条の規定により、医療法人の理事に対し20万円以下の過料に処されます。

産業医の報酬

医療法人の理事長が産業医として他の事業所に行って収入を得る場合があります。その時の収入は医療法人の収入にすればよいか?個人の収入となるのか?という質問をよく受けます。

結論から言えば契約によります。医療法人として契約している場合は医療法人の収入になり、消費税は課税売上となります。

個人として契約していれば、その契約者である理事長の給与所得となり、確定申告において主たる給与と合算して確定申告をする必要があります。この場合の消費税の取り扱いは給与ですので不課税となります。

医療法人の屋号

医療法人の登記上の名称は「医療法人社団 〇〇会」というのが最も多いです。登記名は〇〇会として、屋号は△△病院とするパターンです。その他にも「医療法人 ◇◇診療所」とか 「医療法人 ☆☆クリニック」とする方法もあります。

しかし、◇◇診療所や☆☆クリニックを法人名とする場合、注意しなければならないことがあります。◇◇診療所や☆☆クリニックですと、1箇所しか経営することができません。ですから将来分院を考えている場合は、〇〇会にしておいた方が良いでしょう。

医療法人 〇〇会 が医療法人の登記名であっても、△△病院という屋号を使うことができます。屋号を◇◇診療所から☆☆クリニックに変更したい場合も、医療法人の登記名が〇〇会であれば、定見変更認可申請だけですみます。

また、標榜できる診療科目は医療法施行令第3条の2で次のように定まっています。

(広告することができる診療科名)第3条の2 法第6条の6第1項に規定する政令で定める診療科名は、次のとおりとする。
1.医業については、次に掲げるとおりとする。
イ 内科
ロ 外科
ハ 内科又は外科と次に定める事項とを厚生労働省令で定めるところにより組み合わせた名称(医学的知見及び社会通念に照らし不合理な組み合わせとなるものとして厚生労働省令で定めるものを除く。)
(1)頭頸部、胸部、腹部、呼吸器、消化器、循環器、気管食道、肛門、血管、心臓血管、腎臓、脳神経、神経、血液、乳腺、内分泌若しくは代謝又はこれらを構成する人体の部位、器官、臓器若しくは組織若しくはこれら人体の器官、臓器若しくは組織の果たす機能の一部であつて、厚生労働省令で定めるもの
(2)男性、女性、小児若しくは老人又は患者の性別若しくは年齢を示す名称であつて、これらに類するものとして厚生労働省令で定めるもの
(3)整形、形成、美容、心療、薬物療法、透析、移植、光学医療、生殖医療若しくは疼痛緩和又はこれらの分野に属する医学的処置のうち、医学的知見及び社会通念に照らし特定の領域を表す用語として厚生労働省令で定めるもの
(4)感染症、腫瘍、糖尿病若しくはアレルギー疾患又はこれらの疾病若しくは病態に分類される特定の疾病若しくは病態であつて、厚生労働省令で定めるもの
ニ イからハまでに掲げる診療科名のほか、次に掲げるもの
(1)精神科、アレルギー科、リウマチ科、小児科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻いんこう科、リハビリテーション科、放射線科、病理診断科、臨床検査科又は救急科
(2)(1)に掲げる診療科名とハ(1)から(4)までに定める事項とを厚生労働省令で定めるところにより組み合わせた名称(医学的知見及び社会通念に照らし不合理な組み合わせとなるものとして厚生労働省令で定めるものを除く。)
2.歯科医業については、次に掲げるとおりとする。
イ 歯科
ロ 歯科と次に定める事項とを厚生労働省令で定めるところにより組み合わせた名称(歯科医学的知見及び社会通念に照らし不合理な組み合わせとなるものとして厚生労働省令で定めるものを除く。)
(1)小児又は患者の年齢を示す名称であつて、これに類するものとして厚生労働省令で定めるもの
(2)矯正若しくは口腔外科又はこれらの分野に属する歯科医学的処置のうち、歯科医学的知見及び社会通念に照らし特定の領域を表す用語として厚生労働省令で定めるもの《追加》平19政009 《改正》平20政0362 前項第1号ニ(1)に掲げる診療科名のうち、次の各号に掲げるものについては、それぞれ当該各号に掲げる診療科名に代えることができる。
1.産婦人科 産科又は婦人科
2.放射線科 放射線診断科又は放射線治療科

医療法人の女性医師の活用

厚生労働省が発表している男女別医師国家資格合格者推移によりますと、女性の医師国家資格合格者が毎年増えていることが分かります。また、男女別合格率でも女性の方が合格率が高いことが分かります。この10年で女性受験者は28.2%から33.5%に上昇しており、男女別の合格者でみると34.5%が女性合格者となっています。他の国家試験でも女性受験者は毎年多くなり、また、女性の方が合格率が高くなっているというところで共通しています。

今や医師の1/3が女性の時代になろうとしています。日本の医療機関は箱モノが多く、ソフトである人材が不足しています。医師不足は地方に行けば行くほどより深刻になっています。医療機関こそダイバーシティ・マネジメントに真剣に取り組み女性医師の活用を積極的に行わなければ医師不足で潰れていくでしょう。

女性活用をうまくできる企業はCSR(企業の社会的責任)にも力を入れていることが多く、社会的に生き残っていくにはダイバーシティ・マネジメントやCSRに力を入れていくことが必須となります。

具体的には、ジョブシェアリング(常勤医師1人分の仕事を2人で担当する)などのワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の調整が必要となってくるでしょう。

医療法人の種類

出典:「医療法人の法務と税務」法令出版 2009




医療法人は大きく分けて財産の寄付行為からなる財団と人の集まりからなる社団があります。社団はさらに持分の定めのないもの(持分がないため相続税がかかりません)と持分の定めがあるもの(持分は時価評価され相続税の対象となります)に分かれます。

今までの約96%が持分の定めのある社団医療法人でしたが、平成19年4月1日より持分の定めのある社団医療法人の新規設立ができなくなりました。持分の定めのある社団医療法人が持分の定めのない医療法人に移行することは可能ですが(税務上の問題もあり)、その逆の持分の定めのない医療法人が持分の定めのある医療法人に移行することはできません。

医療法人の特異性

医療法人は株式会社と比べ特異な部分があります。

まず、大きな特徴としては、医療法により配当が禁止されているということです(医療法54条)。そしてもう一つ、議決権が株式会社ですと、出資割合に応じて与えられるのですが、医療法人は社員(注)1人1票の議決権が与えられます。出資を何千万してようと無出資であっても社員であれば1人1票の議決権が与えられるので、株式会社以上に社員を誰にするかは重要といえます。

(注)この場合の社員は従業員の意味ではなく、民法でいう社員です。

株式会社と医療法人の相違点

株式会社 医療法人
出資者 株主 社員が出資している場合が多い
経営権 取締役 理事
監査 監査役 監事
所有権 株主 社員
最高意思決定機関 株主総会 社員総会
議決権 出資割合に応じる 社員1人1票
設立 いつでも可能 年2~3回
収益業務 可能 不可能(一部可能)
配当 可能 不可能(禁止)